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28 新星現る10
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夕食中もショルはにこにこして蒼を見ている。
彼と会って2回目の食事。
ショルティと言う男は本当によく食べる男だ。
食いしん坊の蒼だって、こんなに外食ばかりはしないから、さすがに夕食は食べる気にならなかった。
それに。
こんなに見つめられていたのでは食事をする気はますます萎える。
『いつまで着物は着てればいいの?』
蒼は大きくため息を吐いて、箸を置く。
『やっぱり疲れる?』
『日本人だからって、いつも着ている訳ではないんだよ?おれなんて、着物着るのが久しぶりなんだから……』
『でも、蒼は着物の着方も分かっているよね?』
『それは、そうだけど……』
『できれば、演奏会が終わるまで着ていてもらいたいな』
そっか。
演奏会が終わるまでか。
では帰る前に脱げばいいのか。
そう理解する。
そして大きく頷く。
『限界が分かれば頑張れる!』
そんな様子にショルは苦笑した。
『蒼は可愛いね。日本人はみんなそうなのかなあ……。本番なんかこないといいな。蒼とこうしてお話をしていられたらいいんだけど』
ショルの言葉に目を瞬かせて苦笑する。
『なに?』
『ううん。関口もそうだから』
『関口?圭のこと?』
『うん』
蒼はテーブルから目を離し、窓の外に広がっている夜景に視線を向ける。
もう日も短くなってきた。
薄っすら暗くなってきた外は、ネオンが鮮やかだった。
ホテルの最上階は眺めのいいレストラン。
時間も早いので、客はまばらだが、静かで雰囲気のよい店だった。
『関口もそう。おれからしたら本番前って必死に追い込みをするものだと思っていたのに。本番前は楽器に触らないし、ショルみたいに話してるだけ。やっぱり音楽のことって分からないや』
ショルは目を細めて蒼を見詰める。
『蒼は圭のこと大切なんだね』
『え!?』
ビックリする。
『隠さなくってもいいよ。蒼はいつも圭のことばっかりだもの』
それはそうだろう。
ここのところ、蒼の生活の大半は関口で占められているんだから。
頭の中も関口のことでいっぱいだった。
今日だって。
こうしてショルティといても関口のことばっかり考えてしまう。
ショルティは肩を竦めた。
『目の前におれがいるのに、圭のことばっかりなんて。ちょっとひどいね』
『あの。ごめん』
『いいって。それよりも!蒼のことも話してよ』
『え?』
『圭に怒られちゃうかな……?』
苦笑してショルはテーブルに肘を着いた。
『おれのこと?』
『そう。蒼の好きなものとか。蒼が今、一番興味があるものとか。蒼の仕事のこととか……。家族のことでもいいよ?蒼はどんな生活をしてきたの?』
一度に聞かれても困る。
おろおろしてショルティを見ると、彼は優しい瞳で蒼を見ていた。
『なんでもいいんだ。蒼のことが知りたい』
『……あの。おれ、英語はそんなに得意じゃないから。上手く伝えられないかも知れないけど』
『それでも構わないよ』
俯いてからぽつぽつと話をする。
『じゃあ、おれの仕事のこと……』
『うん』
言葉を探しながら蒼は、星音堂のことを話し始めた。
その間、ショルティは、にこにこして相槌を打った。
最初はもごもごしていた蒼だったけど、一生懸命に話を聞いてくれるショルティの態度に気分がよくなり、いろいろな話をした。
ショルティにとったら本番前の安寧の時だった。
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