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29 ライバル1
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演奏会という大役を務め、ほっとしていた圭一郎。
自宅でのんびりした朝を迎えられることは、彼にとって幸せこの上ない。
一年のほんの一部しか過ごさない自宅の書斎。
大きく取ってある窓からは朝のさわやかな光が差し込んでいる。
「蒼はどうしたかな?」
結局、昨晩は蒼からの連絡はなかった。
少々心配だが、ショルティを信じるしかないだろう。
蒼が、関口の大切な人だってこと、彼は分かっているはずだ。
何事もなく過ごせたらなら何よりだが。
こちらに連れて来たほうが安心だったろうか?
ショルティは午前中の内に日本を離れなければならないから、自分で送って行って、蒼は有田に頼むしかないかな?
昨日の内に帰す予定だったのに。
また関口に怒られる。
なんとか仲良くやっていきたいと思ってはいても親子とは難しいものだ。
ため息が出た。
「また、亀裂が入ってしまうなあ」
しばらくじっとしてから、側にあった新聞を広げる。
文化面にはショルの公演のことが掲載されていた。
しかも、写真こそないものの蒼のことにまで触れられている。
『マエストロ・ショルティは親日家でもあるようだ。今回のデビュー公演に際しては、関口圭一郎がサポート同行し、着物を着た日本人が駆けつけた。』
「あらら。ますます、圭に怒られてしまう……」
大きくため息を吐きつつ新聞を見ていると、廊下が騒がしくなり、唐突に扉が開いた。
「このバカオヤジッ!!」
「あちゃ~。もうばれちゃったんだね。宮内くんからかなあ……?」
「ばれちゃったって……ッ!もう今回ばかりは本当に許さないよ!親子の縁もお仕舞いだっ!!」
関口は一晩かけて高速を飛ばし上京してきた。
眠気なんて、これっぽっちも感じない。
まあ、昨日は蒼を待ち焦がれて転寝をしていたおかげもあるが。
一睡もしないでやってきた彼。
目が血走っている。
ものすごい剣幕だった。
彼は入ってくるなり、圭一郎の目の前のテーブルを叩きつける。
「蒼は、外人向けの芸者さんじゃないんだからねッ!」
完全に我を失っている。
この状態で、よく事故を起こさないでここまで来たものである。
逆に感心しつつ、わざと間をおく。
彼に怒鳴られるのは覚悟をしていたことである。
冷静に対処しなければならない。
圭一郎は低い声で「すまない」と謝った。
「……」
父親の冷静な態度に、関口は閉口した。
「黙っていたのは悪かった。でもショルは大丈夫だし、蒼も大丈夫だ。彼には同意を得たし」
「蒼も同意?」
「そうだよ?お願いしたんだ。ショルの日本公演に来てもらうって約束」
新聞をたたみ、圭一郎は立つ。
「そんな。蒼は、なにも」
「これは、秘密にしてねってお願いしておいたからね」
「父さん!」
歩き出す圭一郎を追いかける関口。
「キミに言ったら絶対に連れ出せないと思ったから」
「どうしてそんな!?なんで蒼なんだよ?ショルの相手だったら他にいるじゃないか!」
圭一郎が部屋から出ようとしているのを阻止するように、関口はドアを閉じて目の前に立ちはだかった。
「父さん!」
圭一郎はため息を吐く。
「あんまり可愛い蒼の写真を落とすから悪いんだ」
「は!?な……っ!おれが悪いっていうのかよ!?」
「悪いとは言わないが……」
「なんだよ?」
煮え切らない父親の声に関口は表情を険しくする。
「大切ならしまっておきなさい」
圭一郎はにやっと笑う。
「はあ!?」
「圭。君が思っているよりも蒼は、魅力的なんだよ」
「……っ!」
「用心しないと」
そんなのは分かっている。
側にいる自分だってどきどきしてしまうんだ。
「蒼を迎えに行こうか」
ぎゅっと拳を握り締めて彼は父親の後に続いた。
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