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32 路地裏の出会い1
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関口は柴田からもらったメモを見ながら彷徨っていた。
「……えっと。本当にこの辺でいいのか?」
いくらこの街出身といっても、住んでいたのは中学生までだ。
知っている範囲は決まってくる。
住所だけ渡されても目的地に着くのは至難の業だった。
「えっと……」
というか、こんなところに本当にいるのだろうか。
夜になると賑わう路地も、日中は閑散としているものだ。
柴田に教えられてきたここは、飲み屋街の裏路地だった。
今回のコンクール対策で紹介された柴田の師匠。
先日、柴田からもらったメモには『バー☆ラプソディ』と書いてある。
半信半疑だが仕方がない。
手がかりはこれしかないのだから。
うろうろしていると、お目当ての看板を発見した。
なんだか怪しげだ。
午後になったとは言え、店がやっているかどうかも怪しいものだ。
「ここか」
柴田の話では、店が始まってしまうと話にならないから、夕方前くらいに行くように指示されていた。
迷うが、仕方ない。
おそるおそる入ってみる。
店は随分老朽化しているようだ。
扉はぎしぎし音を立てて開いた。
「まだやってないわよ」
暗い店内に低い女性の声が響く。
「あ、あの。柴田先生から紹介を受けてきたんですけど」
「あんたが例の?」
暗さに慣れてくると、相手がはっきり見える。
これが柴田の師匠?
そんなはずはないだろう。
だって目の前にいるのは若い女性じゃないか。
どう見ても柴田よりは若い。
「ふうん、いい男じゃないの。圭一郎の息子なんだって?」
「……父は関係ないです」
なんで。
あいつが出てくるんだ。
関口はむっとして返答した。
「あははは!」
関口の言葉に彼女は笑った。
「まだまだ子どもだねえ。父親の大きさに萎びているって感じ?」
図星で何も言えない。
「まあ、いいよ。とりあえず、1曲弾きな」
「え、」
「楽器持っているんだろう?何しに来たんだよ」
「はあ……」
なんか、イメージがことごとく崩れる。
大丈夫なんだろうか……。
とりあえず愛器を出し、コンクールで引いたメンデルスゾーンを弾いた。
その間、彼女はグラスを片手に飲みながら聞く。
なんだか緊張した。
こんなところで、弾いたことなんてない。
途中で止められることもなく、最後まで弾き切る。
「ど、どうですか?」
「まだまだだねえ。柴田もよくこんな坊や寄越したもんだよ」
「え?」
「とりあえず、今日からここで弾きな」
「は!?」
「ちゃんと日割りで金は払うよ」
黒い長い髪を掻き揚げながら女は笑った。
「あ、あの!!」
「あたしは桜。桜って呼び捨てでいいよ」
「って!おれはレッスンを受けに来たんです!」
「文句があるなら柴田に言いな。あたしは知らないよ」
関口はめまいがする。
なにがなんだか分らなかった。
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