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32 路地裏の出会い2
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今日も仕事は順調だった。
そろそろ文化祭の練習が始まるから、毎日のように帰りは遅くなるだろう。
今のうちだ。
さっそく帰った瞬間から本を開く。
昨日の続きを読まなくちゃ。
本に没頭すると蒼に「時間」なんて概念はなくなる。
ふと気づくと、時間は深夜の2時を回っていた。
「あれ?」
関口が帰って来ないなんて。
一瞬、この前の女性との事件を思い出す。
「でも」
あの時、関口は約束してくれたんだ。
もう自分以外の人に優しくはしないって。
信じている。
蒼は本をしまってベッドに潜り込んだ。
「大丈夫だよね……」
自分に言い聞かせつつ、ウトウトし始めると、玄関が開く音がした。
「!!」
思わずビックリして身体を起こす。
「蒼、起きていたのか」
「お、お帰り」
関口からはタバコの匂いがぷんぷんしている。
そして酔っ払っているようだ。
珍しい。
「遅かったね」
「蒼~~!!」
関口は楽器を床に置くと、蒼に勢いよく抱きついた。
「関口!?」
「だめだ~、おれ」
「なに?」
「全然だめだった。おれ」
関口の答えに蒼は思わず笑う。
「どうしたの?」
関口が、こんなにグダグダになるのは初めてかもしれない。
「笑い事じゃないって!なんだってんだよ~!!」
「どうしたの?」
蒼を道連れに、関口はベッドに横になる。
「柴田先生の師匠、今日会うって言ってたじゃん」
「うん」
「それが、とんだ食わせ者だった!」
「はあ?」
「飲み屋の姉さんというか、おばちゃんと言うか……年齢不詳!!」
柴田の師匠ではもう50にはなっているはずだし。
圭一郎のことも呼び捨てだった。
彼を知っているなんて、やっぱりすごい腕なのかと思いきや、彼女はなんにもレッスンしてくれない。
それどころか、今日は店でひっきりなしに演奏させられた。
客は勝手なことばっかり言う。
「その曲はやめろ!」
「静かに弾け!」
「楽しくないぞ!」
野次も頂いたくらいだ。
もう最悪だ。
演奏の合間には、苦手な酒を飲まされるし。
へろへろで最後のほうなんて、演奏どころではなかった。
「関口」
「もう!」
怒っているのか、眠いのか。
関口は蒼の腕の中でぶつぶつ文句を言いながら、眠っていた。
「関口……」
ごめんね。
おれのせいで。
蒼は彼の頭を撫でた。
「ゆっくり休んでね」
寝息を立てている関口を優しく見て、蒼もそっと瞳を閉じた。
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