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32 路地裏の出会い3
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「え~、今日から本格的にミュージカルの練習に取り掛かりたいと思う」
翌日。
水野谷の言葉に一同は仕事をしていた手を止める。
「間に合うかなあ~」
「今年はミュージカルって……歌うんですよねえ?」
吉田の言葉に水野谷は、嬉しそうに頷いた。
「そういうことだ!」
「でも、このメンバーじゃ……」
「そうだな。まだちゃんとした概要を話していなかったな」
おっほんと咳払いをして、企画書を配る。
「これを見ながら聞いてくれ」
蒼も手元に回ってきた書類に目を通す。
「今回のミュージカルのテーマは『ブレーメンの音楽隊』。配役は後日決める。今回は市民オケに協力を得ることができたため、伴奏をオケでやってもらう。しかし、おれたちの歌唱力ではオケに負けて声が埋もれてしまう可能性があるため、特別に柴田先生とお話して、弦楽四重奏で伴奏してもらうことになった!」
「すごい……」
「本格的ですね」
尾形も星野も唸って聞いている。
「今回のミュージカルの曲は、な、なんと!!今回のための書き下ろし、つまり初演だ!」
得意になって言い放つ水野谷。
一同もびっくりして腰を抜かした。
「そ、そんな!」
「大それたことを!!」
「課長!!」
「何とでも言ってくれ。作曲は市内を拠点に活躍している神崎先生に依頼することになった。曲自体は、まだ半分くらいしか出来上がっていないが、間に合うだろう。途中で合唱も入る予定なので、そこの部分は星音堂を拠点に活躍している市民混声合唱団にお願いすることになった」
星野は書類を見ながら頭をかく。
「なんだってやる気満々だねえ……今年は」
小さな声で蒼に囁く。
「本当ですね。去年なんかは段取りもやってくれなかったのに。今年は段取りばっちりです」
苦笑した蒼。
水野谷はギラっと見逃さなかった。
「そこ!!」
「はい?」
「質問は最後にしてくれたまえ!」
「はい」
蒼は肩をすくめて笑う。
向かい側の吉田も同様だった。
「我々のミュージカルは第1部で、第2部では市民オケのリサイタルと市民合唱のリサイタルにすることにした。どうだ?質問は?」
眼鏡をきらりと光らせて胸を張っている水野谷は課長らしい。
いつもこうだといいのだが……。
「課長!着ぐるみって話でしたけど、それでいいんですか?」
吉田が手を上げる。
「そうだな」
「でも、着ぐるみじゃ、声が通りませんけど」
「ぐ!!」
一同は顔を見合わせる。
「確かに。それじゃなくても素人なんだし。無理ですよねえ」
「そうだな」
……アクシデント発生!!
水野谷はいつものように、しょんぼりして椅子に座った。
「どうしよう」
「課長……」
「やっぱり、去年みたいに仮装でいいんじゃないですか?」
「そうだな……」
「マイクを使う手もありますけど」
蒼は、ぽつりと言う。
「それだ!!」
とたんに、水野谷は立ち上がって蒼の元に駆け寄った。
「蒼!!たまにはいいことを言うじゃないか!」
「はあ……」
急に手を取られて握手させられる。
「ひゃあ!」
「蒼~!!お前ってやつは!」
星野を初め、事務の一同は水野谷に手を握られて、鳥肌の立っている蒼を愉快そうに眺めていた。
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