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33 ちゅんちゅんちゅん1
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関口がコンクールの準備で忙しい時期だけど、蒼だって忙しくなりつつある。
秋に行われる星音堂の文化祭。
毎年1回のこのイベントは、1年の中で一番大きな目玉なのだ。
これからは、毎日のように遅くなるので、今の内にのんびり過ごしたいって言うのが本音だ。
今日だって、遅番なんてやりたくもない。
早めに帰れるように、さっさと出来ることはしてしまおう。
と言うことで、蒼は夜の見回りをしていた。
時間は8時。
普通だと、9時になったら戸締りに見回るのが、夜間に使用されない練習室を先に見回ってしまうこともあるのだ。
他の練習室ではそれぞれの人たちが練習をしている時間。
廊下には人影はない。
星音堂のレンタルは時間で区切られている。
1日か、半日(午前・午後)かまたは夜間。
この節目の時間を過ぎてしまうと、出入りする人は少ない。
誰もいない星音堂。
蒼はこの時間が好きだ。
時間になると人でごった返す星音堂が、唯一静かになる時間。
蒼はふんふん鼻歌を歌いながら、廊下を歩いていく。
すると、ちょっとした休憩所になっているところに一人の男がいてビックリした。
廊下の途中、ちょっとしたギャラリーになっている場所にはテーブルと椅子がおいてあって、コーヒーを飲んだりすることが出来るようになっている。
だけど、この星音堂に来る人は、ほとんどが利用の目的でやってくるので、こういう場所を利用して寛いでいる人は少ない。
音楽をやっている人なら、なじみがあって気軽に入ってこられるかもしれないが、敷居が高い施設でもある。
まあ、秋に行われる文化祭は、そういうとっつきにくさを解消するために行われているところなのだが。
まだまだ、そうもいかないところが本当だろう。
だから、ここに人がいるなんてことは滅多にないのだ。
今日は、人がいてビックリしてしまう。
「!」
鼻歌なんて歌っていたから恥ずかしい。
はっとして歩みを止め、そっと顔を出す。
「……」
ドキドキしてみると、男が一人、椅子に座って本のようなものを見ていた。
楽譜?
見たことがある男だった。
いつも、市民合唱の練習のときに見かける初老の男だ。
彼は難しい表情で楽譜を見つめている。
なんだか、話しかけにくい雰囲気だ。
たまに、関口もこんな時がある。
彼曰く、曲想を練っているときなんかはそんな顔になるのだと言っていた。
そっか。
この人も楽譜とにらめっこして考えているのだろう。
そう考えると、邪魔は禁物だ。
そっとその場を離れようと思って踵を返す。
しかし、蒼は振り向いた瞬間。
吹っ飛んだ。
何があったかって、後ろからすごい剣幕で走ってきた若い男とぶつかったのだ。
「わ!」
しかし、よっぽど相手の男は怒っている様子で、蒼のことなんか眼中にないようだ。
「先生!!納得できません!」
若い男は楽譜とにらめっこしていた初老の男の前に立った。
「黒田」
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