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34 踊っとけ3
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後の祭り。
とはよく言ったものだ。
言ってしまってから胸の奥がずんと重い。
アパートに帰ると、関口は案の定いない。
「そっか」
今日もヴァイオリン協会の後に、お店に行くのだった。
もやもやしながらベッドに身体を預ける。
「わがままばっかり。一番大変なのは関口なのに」
どうしてこんな嫌な奴になってしまったのだろう。
自分は。
いつも我慢していた。
熊谷家にいるときだって。
わがままなんて言わないで、我慢していたのに。
それに、一人の時だってそんなことはなかった。
一人でいることにも我慢できたし。
誰かに甘えたいなんてちっとも思わなかった。
寂しいことにも慣れっこだった。
だけど最近、関口に関しては我慢ってことができない。
自分の欲求が強くてわがままになってしまうのだ。
関口に求めたいことばっかり。
「関口のせいなんだから」
関口が全部悪いのだ。
完全な責任転嫁であるが。
蒼はそう思うことで自分を納得させた。
関口と一緒にいるようになってからの自分は自分ではないみたい。
今まで生きてきて知らなかった自分ばかり。
「おれって、本当は嫌な奴だ。陽介は知っていたのかな……?」
枕に顔をうずめて蒼は瞳を閉じた。
視界が暗くなると、どこからか音が響いてくる。
「これって」
瞳を閉じたまま音に耳を澄ます。
「ヴァイオリン?」
関口の音だ。
蒼は恥ずかしい話、彼のヴァイオリンを生で聞いたのは1回しかない。
あのコンクールのときの。
彼の音は悲しげで泣きたくなる。
「関口」
蒼は身体を起こしてから時計を見た。
時間は10時を回ったばっかりだった。
「関口、ごめんね」
蒼はそう呟くと、玄関に向かった。
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