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35 踊っとけ5
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そうだな。
こういうときは楽しい曲がいい。
関口はヴァイオリンを片手に立ち上がる。
タバコをふかしていた桜は、手を止めて顔を上げた。
今日は、なんだか気分もよくなった。
蒼に謝ろう。
そう思う。
いつも喧嘩した後って、ばつが悪いから謝るのは気まずい。
でも、今日は違う。
むしろ早く蒼の元に行って謝りたいくらいだ。
ヴァイオリンを構えて、ここの酒場で教えてもらったジプシーの曲を弾き出す。
陽気な曲は、ここの常連にも大人気だ。
最初は「お前が弾くと暗い」とか野次を飛ばされていたけど。
今日は、なんだか違うんだ。
自分の胸も躍った。
楽しい!
客たちの手拍子に合わせて身体を揺らすと、立ち上がって踊りだすものも出現する。
側にあったタンバリンを持ち出して叩く客も出てきた。
店内は明るくなる。
そんな様子をカウンターの中で見ていた桜は、苦笑した。
「音楽にも柔軟性って大切なのよ。圭」
そう呟いてタバコを灰皿に押し付けると、店の入り口が開いた。
「いらっしゃい」
中に入ってきたのは見たことのない男。
個性的な店だから、新しい客がくるなんて滅多にない。
しかも、男は紹介やなにかじゃないらしい。
きょろきょろしながら店内に入ってくる。
他の客たちは音楽に夢中で踊り明かしている。
人ごみに押されながらも男はカウンターにたどり着いた。
「す、すみません」
「何にする?」
桜の言葉に迷っている男。
「ビールでいいの?」
先に桜が口を開く。
「は、はい」
ビールをジョッキについで目の前に置く。
「すごい盛り上がっていますね」
「そうね。家には優秀なヴァイオリン弾きがいるからね」
「優秀な……。でもこれって」
男は人ごみで見えない関口を探す。
「あんた、坊やの知り合い?」
「へ?あ、あの。これって。関口が弾いているんですか?」
男の様子に桜は苦笑する。
「自分で確かめな」
とんと背中を押してやると、彼は人ごみを掻き分けて前に進む。
「関口……」
ビールを持った手に力がはいる。
いつの間にか押し出されて前に出てしまった。
そこには、生き生きとして演奏をしている関口がいた。
「蒼?」
ヴァイオリンを弾いていた関口は一瞬、目の前にいる蒼の存在にビックリして弓の力を緩めた。
しかし、そのまま演奏は続ける。
ぼんやり自分を見ている蒼に、彼は微笑みかける。
「ごめん、蒼。昨日は」
「へ?」
「おれ、考えなしで」
側にいたお客たちは、踊りながらも関口と蒼を見守っている。
「お、おれこそ。謝りたくて。それに。おれ、関口がどんな世界を見ているのか知りたくて。ごめん。来ちゃった」
「いいって。嬉しい」
「関口……」
そんな二人のやり取りを見ていた乃木は、苦笑して蒼の首に腕を回す。
「わわ!ビールが!!」
「おいおい~なんだよ!これが関口の恋人か!」
「へ!?」
「乃木さん!」
「おっと!演奏やめたら顰蹙だからな!さっさと続けろ!」
苦笑している乃木は蒼を優しく見る。
「気難しい者同士、仲良くしろよって!」
「へ?」
「乃木さん!!!」
関口の楽しい演奏は続く。
蒼もなんだか楽しい気分になって、身体を揺らした。
夜は楽しい。
こんな楽しいことを関口は、毎日経験していたなんて!
蒼にとったら刺激的だ。
「お前も遊びにきな。関口の演奏は最高だ」
乃木に抱きしめられて、蒼は瞳を白黒させた。
「ちょ、」
「乃木さん!!」
さすがに関口は怒る。
「おれの蒼に触らないでください!!!」
「お~怖い!」
自分の蒼を触られてムンムンしてしまうが、初めて「関口の演奏は最高だ」なんて言われたものだから彼は嬉しい。
思わず苦笑してしまった。
楽しい夜はこれから。
この店に来て初めて分かった。
音楽って人と楽しむためのものだってこと。
そう。
人と。
蒼と……。
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