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36 四重奏3
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それから1週間がたった。
ミュージカルの曲もずいぶん出来上がったので、後は暗譜をするだけだ。
「みんな、聞いてくれ!南先生からも、みんなが頑張ってくれているので、ずいぶん上達したとのお褒めの言葉を頂いた」
朝の朝礼。
いつもだったら今日の予定だけで済むところだが、ここのところきぐるみ一座の連絡事項が増えたので時間は延長することが多かった。
それでなくても朝の朝礼はだるいのに。
水野谷の言葉に職員たちは、黙って聞き入っていた。
「と、言うことでッ!とうとうキャストの発表だ!」
水野谷の言葉に一同は息を呑む。
一瞬で目が覚めた。
今まではそれぞれが全部のパートを覚えるためにと一緒に歌っていたのに。
今日からは、一人で歌わなければならなくなるのだ。
心臓がドキドキした。
「南先生の独断と偏見でキャストは決定したそうだ。先生からのコメントを付け加える。『今回の選出には歌のレベルを加味してはおりません。あくまでも、声の質で決定させていただきました。声のイメージは大切です。自分にあったキャストをこれから練習することで、上達するようにしてください』だそうだ」
「げ!」
「じゃあ、音痴だからちょい役ってわけにはいかないってことか?」
氏家はげっそりする。
下手にしていれば聞き苦しいと判断されて、大した役に着かなくて済むなんて考えていたようだ。
「残念でした」
水野谷は嬉しそうに笑った。
「では発表する」
おほんッともったいぶってから、水野谷は書類に視線を落とした。
「ロバ、星野!」
「ええ!」
「どうだ。主役だぞ」
「おれ、そういう柄じゃないんだけど」
本当にうんざりしている星野。
そんな彼を蒼は苦笑してみた。
でも似合うと思う。
動物の中で一番大きいロバ。
バリトンな星野の声は似合う。
「次、犬は高田」
「犬か」
ちっと高田は舌打ちをする。
一同はそんな様子に顔を見合わせた。
もしかしてこの人……。
主役を狙っていたんじゃ。
意外な一面に恐々としていると、水野谷が次のキャストを発表する。
「猫は蒼!」
「猫?」
まあ、どの役についても同じだろう。
蒼は真摯に受け止めるしかない。
「ニワトリは吉田!」
「お、おれっすか!」
「お前以外に吉田って人間がどこにいる!」
当たり前のような突っ込みを入れられて、吉田はがっくりする。
「高いっす」
身体が小さい動物になるほど音域は高くなる。
蒼はほっとした。
ニワトリだけは、勘弁だったし。
「で、残りの氏家、尾形、おれは盗賊一味だ。以上だが……質問は?」
質問なんてものはない。
あるのは不満だけだろう。
そして、どのキャスティングになっても文句は出るのだから仕方がないだろう。
「今日の夜からは、このキャストで集中して練習するそうだから心して掛かること。もう少し形になったら伴奏と合わせるからな。それまでにちゃんとすることだな。時間があまりないのだ。死ぬ気でやってくれ」
確かに。
時間がないのだ。
一生懸命にやらないと。
かなりヤバイ。
しかも、練習しなくて恥をかくのは自分でもあるのだ。
これはかなりのプレッシャーだろう。
いつもは?のほほんとしている星音堂スタッフも、今回ばかりは必死に取り組まなければならなくなった。
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