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36 四重奏5
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数日後。
「どうだ~調子は」
アンサンブルチームの様子を見に来た柴田は、和やかなムードに満足したのか、笑顔で登場した。
「先生」
「悪いな。ちょっくら、関口と話していい?」
「どうぞ」
佐伯は、みんなを代表して応える。
休憩と言う言葉に横田はトイレに出て行った。
雪田と佐伯が今までのところについて話し合っているのを確認してから、柴田は関口を部屋の隅っこに連れてくる。
「どうだ?調子」
「いいですね。楽しくやらせてもらっています。みんなで吟味して、音楽を作り上げるのは楽しいです」
「そっか」
関口の返答に柴田は満足したように頷く。
「で」
「で?」
「あっちは?」
「あっち?」
しばらく瞳を瞬かせてから、柴田の言葉の意味を知る。
「あ、ああ。桜さんところですか?」
「そうそう!それだ、それ。大丈夫か?」
柴田のお師匠だもの。
桜の指導が変わっていることくらい最初から分っていたのだろう。
ずいぶん心配をしてくれているようだ。
「大丈夫です」
彼は関口の答えに、ほっとした表情を見せる。
「そっか」
「はい。確かに。最初は猛烈にビックリしましたけど。なんとかご指導を受けています」
「あの人は人に教えるってことが苦手だからさ。どうなることかと思ったんだけど。まあ、なんとか側にいることで、学んでもらえるのじゃないかって思っていたのだ。おれなんかよりは、ずっと素敵な人だから」
「んなことないです!先生も十分素敵ですって」
苦笑して柴田を見る。
「お前に励まされるなんて。おれも歳だな」
柴田はちょっぴり嬉しそうな笑みを洩らす。
「文化祭が終わったら、また食事にでも来たらどうかってうちのが。まあ、お目当ては、蒼だと思うけど」
そうだろうな。
関口も同感だ。
いつの間にか、お料理教室化するキッチン。
二人は立派なお料理サークル仲間だ。
「なんでも、蒼に教えたい料理があるそうだ」
「そうなんですか。伝えておきます」
こそこそと話していると、いつの間にか室内が静かになっている。
一瞬、ビックリして振り返ると、佐伯と雪田、そしてトイレから戻ってきていた横田がこちらをじっと見ていた。
「げ、」
「あ、じゃ、じゃあ、おれはこれで。ある程度仕上がったら是非、聞かせてもらいたいものだ」
柴田の言葉に佐伯は笑う。
「先生のご意見もお聞かせ下さい」
「ああ。宜しく。では」
苦笑いをしながら出て行く柴田を見送ってから、関口は椅子に座る。
と、不意に雪田がみんなに目配せをしてから口を開いた。
「関口くん」
「は?」
「今日は飲みにいけるの?」
そうだった。
関口は慌てる。
すっかり忘れていた。
「えっと」
今日も桜の店に顔を出さなければいけないんだけど。
三人の様子を見たら、そんなことはとてもいえない状況だと悟る。
「約束したもんな」
佐伯まで。
じっと見つめられても困る。
しかも、このメンバーでアンサンブルだし。
輪をいつまでも乱している訳にはいかないのだ。
それは分っている。
分かってはいるのだけど。
一瞬悩んでから、関口は楽器を椅子に置いた。
「わかったって。ちょっと待っていて」
「ああ」
店を断るしかないだろう。
なにを言われるかたまったものじゃないけど。
仕方がない。
携帯で店に連絡を入れる。
すると、意外に桜は快く関口の申し出を了承してくれた。
「よかった」
ほっとして練習室に戻ると、相変わらず三人は関口を見ていた。
「えっと。大丈夫だ。今日は付き合える」
「そっか!」
関口の答えに一同は緊張の糸を緩めた。
「よかった、よかった」
「あのさ。そんなに飲みに行きたいの?」
関口は呆れる。
「だってさ。飲みじゃなくてもいいんだけど」
「そうそう。関口くん。ちっともあたしたちと打ち解けてくれないじゃないの」
そうだっけ?
自分では気にしてなかったけど。
そう感じさせてしまったなら悪いことをしたと思う。
「今日は、お前の話をじっくり聞かせてもらうぜ」
なんだか気が重くなってきた。
自分の話になったら、佐伯たちに話題を振ればいいだろう。
佐伯と雪田はなんだか怪しいもの。
付き合っているのかもしれないし。
そうと決まれば!と四人は早々に楽器を片付けて練習室を後にした。
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