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その夜。
事務室に現れた作曲家の神崎は、蒼の見たことがある女性だった。
あの時。
桜の店で会ったことのある女性。
シルバーのネックレスが印象的な女性。
彼女は蒼のことを覚えていた様子だった。
彼を見て、にっこり笑う。
「あら。あなた。ここの職員だったの」
意味ありげな笑みに、蒼は苦笑いだ。
水野谷は、不思議そうに首をかしげた。
「なんで蒼が知り合いなのだ?」
なんと答えようか?
蒼が困っていると、神崎はあっけらかんと笑う。
「行き着けのお店で知り合ったんですよ。この子とは」
この子って……。
「ふうん。これは面白いですねえ」
神崎は更に笑って楽譜を取り出した。
「これで完成」
手書きの楽譜。
几帳面な音符の書き方は、彼女の性格そのものな気がした。
「ありがとうございました」
水野谷は、嬉しそうに楽譜を受けとった。
「今回は初演ですし、本当に感謝しています」
「練習を見せてもらったりってできますよね?」
「もちろんです!来週以降に全部で合わせることになっているので。是非」
神崎は満足そうに頷いて蒼を見た。
「期待しているよ。お姫様」
「えっ!」
妙に期待されても困る。
ドキドキして神崎を見るが、彼女は艶のある笑みを漏らして出て行った。
しかし、他のメンバーたちは大して気にもならないようだ。
新しい楽譜に群がっている。
事務所から姿を消した神崎を、蒼はぼんやり見送った。
フィナーレの曲は、合唱がメインになっているので自分たちの出番は少ない。
覚えやすいメロディーにもなっているので、今日の練習でほぼ完成したといえるだろう。
後は伴奏や合唱とどのように合わせるのか。
指揮は、市民合唱の横川がしてくれるそうだ。
きっと今頃、彼の元にも楽譜が届いているのだろう。
今日の練習を終えて、一同は荷物を片付けて星音堂を閉める。
「もう少しの辛抱だな」
星野は鍵をかけて蒼に渡す。
「本当ですね」
星野は、日中と同じで携帯を取り出す。
「ほんじゃ、お疲れ」
蒼はさっさと方向を変える星野を捕まえた。
「な、なに?」
「星野さん~。最近、吉田さんと食事に行かないみたいですね」
「それがなんだ?」
「それって、彼女が出来たってことなんじゃないですか~?」
携帯事件があってやっぱり気になってしまう。
蒼は彼の腕をぎゅ~っと掴んでいた。
「蒼」
「別にいいじゃないですか。隠さなくたって。おれだって、星野さんには隠さず話しているんですから……」
蒼の言い分は、もっともな気がした。
別に隠すこともないし。
蒼は関口のことをいつもいろいろ話してくれていたんだ。
自分が話しでもいいかもしれない。
彼は苦笑して蒼を優しく見た。
「そうだ。実はな。好きなやつと付き合えることになったんだ」
「そうなんですね!だから最近おしゃれなんだ」
「最近は余計だろうが」
「だって……」
本当のことだ。
星野は、ぽんぽんと蒼の肩を叩く。
「大丈夫だ。落ち着いたらお前にも紹介するからさ」
「本当ですか!?」
それは嬉しい。
蒼は、ぱっと腕を放した。
「じゃあな」
「はい!」
まったく単純なやつだ。
蒼は、嬉しそうに手を振っていた。
関口の気持ちも分からないでもないな、と星野は思った。
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