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ダメ出し続きだった。
蒼は大きくため息を吐く。
今日は、2回目の練習。
後の練習は、当日のリハーサルしかないって言うのに。
どうしよう。
にゃんこはがっくりうなだれる。
だって。
この気ぐるみ、暑苦しいし、視界が狭いんだもの。
前がよく見えないから、合わせにくいのだ。
音楽を頼りにはしているけど、素で聞き取っていた時とはちょっと違う気がする。
少々遅れるのだ。
少しの遅れは、指揮の横川が合わせてくれるからいいのだが。
ここにきてダメ出しをしてくるのは、神崎であった。
彼女は、今回の練習には最初から参加をしていて、特に前回書き直したところにこだわっているようだった。
なぜに……。
蒼は、がっかりだ。
ブレーメンの音楽隊の主役は、ロバじゃないか。
なんで猫が怒られてばっかりなのだ。
ぶつぶつ文句を言いたい。
「もう一回お願いします」
神崎の言葉に、横川は頷いて指揮を振る。
ロバ星野と犬高田の着ぐるみがステージに入って歌う。
それに合わせて合唱も。
『楽しく行こうぜ~♪楽しく行こうぜ~♪』
盛り上がり、そして静かになったとき、伴奏は一気に消えて関口のソロになる。
蒼の出番だ。
『にゃ~お♪にゃ~お♪にゃ~お~♪』
これだけだって恥ずかしいのに。
せっせとステージの影から姿を見せる。
「姫!それじゃ早いんだって!」
今度は早い?
関口を見ると、彼は蒼を見て拍子をとってくれている。
だけど、よく見えないんだもの。
『面白そうなメンツだにゃ♪ロバに犬♪』
「そこ!」
曲は進むが神崎の指示は厳しい。
それでなくても自信がないのに。
こうも怒られてしまうと萎縮してしまう。
「遅い!王子も姫に合わせて遅れない!」
遅れないって。
さっきは早いって言ったじゃない!
蒼は慌ててしまい、早足でロバたちのところに向かう。
と。
ずでん!
着ぐるみで足元がやられた。
前のめりに豪快な転倒。
思わず、横川が吹き出した。
音楽は止まる。
合唱団も爆笑だ。
「イタタタ」
「大丈夫か?蒼?」
関口は不憫そうに蒼を見ていた。
踏んだりけったりだ。
怒られたり。
転んだり。
着ぐるみを着ていてよかった。
半分涙目なのだから。
情けない。
「今日は、これ以上は無理だろう。神崎先生。二人にはまた改めて練習させますから」
横川の言葉に彼女も頷く。
「そうですね。ごめんなさい。ついつい力が入っちゃって」
起き上がろうとしても、なかな上手くいかない。
もごもごもがいていると、ロバ星野と犬高田が助け起こしてくれた。
「大丈夫か?お前」
「……」
「少し休憩にしようか」
横川の言葉に一同は、緊張感を解く。
いつまでもステージに座り込んでいる蒼は、がっかりしていた。
このままで大丈夫なのだろうか?
心配で仕方が無い。
逆に練習を打ち切られてしまって、不安だけが残ってしまった。
「そう心配すんなって。大丈夫だよ。ずれているって先生は言うけど、そんなに気にならないほどだぞ?ちと思い入れが強いシーンみたいだから。厳しくしているんだよ」
星野の言葉に蒼は頷く。
一生懸命関口に合わせたいのに。
合わないのはどうしてなのだろう?
しょんぼりして客席に下りて座る。
すると、関口がやってきた。
「大丈夫か?蒼。痛かった?」
「関口」
いい加減に被り物を取ればいんだろうけど。
なんだかこんな情けない顔を見せることが出来ないので猫のまま。
痛いなんてよりも出来ない自分の情けなさに腹が立った。
「どうしてダメなんだろう?一生懸命やっているのに」
「蒼」
「難しいね。合わせるのって」
「……」
関口は、猫のぬいぐるみ蒼の頭を撫でる。
「よしよし」
「!」
「お前は頑張っているじゃん」
「関口」
「今まで楽譜も読めなかった蒼が、ここまで出来るようになったのは、素晴らしいことだよ」
「……でも。ちゃんとできなきゃ、意味ないじゃん」
「蒼」
関口は気休めを言っていると思う。
だって。
自分の失敗ひとつで、この曲をダメにする可能性だってあるのだから。
「……」
「蒼。そう気負うな」
「だって」
今になって感じる重さ。
苦痛だった。
「大丈夫だ。後はソロがないんだから。みんなの動きに合わせてね」
ぽんぽんと優しく頭を叩いてくれる関口。
蒼は俯いたままだった。
どんなに慰められても。
今の蒼には届かないのかもしれない。
休憩時間が終了し、横川が入ってくる。
「さて、後半戦頑張るか」
彼の明るい声に、一同はステージに上がった。
ちょっぴり険悪なムードのホールは、明るさを取り戻した。
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