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やってきたのは近所の公園だった。
「え?こんなところで練習するの?」
蒼はびっくりだ。
「だって広いスペースの取れるところないだろう?」
いくら田舎の公園だって多少、人は出ている。
あっちの遊具がある辺りでは親子連れが見受けられた。
「関口」
「ほら、これ着て」
「へ?」
猫の着ぐるみに手が止まる。
「どうして、これ?」
「午前中に借りてきたんだ。これを着ないと感覚が分からないだろう?今日は、何回も付き合ってやるから。タイミングを身体に覚えさせるんだ」
「関口……」
彼は側のベンチにキーボードを置き、自分はヴァイオリンを出す。
「今日はマイクなしだからね。大きな声出さないとおれに聞こえないから」
「そんな」
「文句はなし!」
さっさと準備をしている関口。
本気らしい。
蒼はしぶしぶパーカーを脱いでTシャツになり、着ぐるみをかぶった。
ヴァイオリンの音に遊具で遊んでいた子どもたちは視線を向ける。
すると、そこにはにゃんこがいるではないか!
こんな愉快なことはない。
ブランコやアスレチックで遊んでいた子たちは遊具から降りてこちらに向かって走ってくる。
「わわ!関口~!どうすんの?」
「どうするもなにも。観客がいたほうがいいだろうが」
苦笑して彼はヴァイオリンの調整を終え構える。
「じゃあ、昨日のところから!」
鬼だ。
鬼作曲家よりも、ここに立っている自分の恋人のほうが鬼に見えた蒼だった。
何度も何度も同じところを繰り返して練習した。
だけど。
なかなか合わない。
何でなんだろう?
関口のことを一生懸命見ているつもりだったのに。
蒼はべたっと地面に転がる。
「もう、無理!」
しかし、側のベンチに座って鑑賞していた子どもたちからは笑いが起こる。
「猫しゃんだらしないね」
「寝ちゃった」
こんなガキどもに言われたくない。
蒼は寝転がったまま、子どもたちを見上げて声を上げた。
「だって~!仕方ないじゃん!」
「あ~あ。すねた!」
子どもたちからは笑いが上がる。
そんな様子を見ていた関口も苦笑だ。
「ほら!蒼。子どもに馬鹿にされているぞ」
どうしてうまく出来ないのだろう。
関口がもっと自分に合わせてくれてもいいのにと思う。
彼のほうがプロなのだから。
ちらっと彼を見ると、彼も疲れているように見えた。
そうだよね。
昨日から同じところばっかり、自分に付き合わされて弾いているのだ。
昨日の練習だって、自分だけが疲れたわけではないのに。
関口も疲れているはずだ。
それなのに。
自分ばっかり疲れたなんて思っていたのでは申し訳がない。
彼は蒼が用意できなくても伴奏を弾きだす。
すると、側のベンチに座っていた子どもたちが歌いだした。
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