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桜は嬉しそうに蒼を見た。
「いらっしゃい。久しぶりじゃないか」
「すみません。いろいろ立て込んでて」
「明日なんだって?関口から聞いたよ。あたしも見に行くから」
「え、桜さんも?」
「当たり前じゃない。かわいい蒼も出るし、それに、あたしの弟子の関口の演奏はチェックしておかないとね」
そうだった。
桜は関口の先生なのだ。
関口は全く何も教えてくれないっていつもぼやいているけど。
れっきとした師匠なのだ。
「先生もお疲れ様」
桜は神崎の前にピンクのカクテルを置く。
「久しぶりの書き下ろしだったから結構、体力使ったわ」
「そうでしょう?しばらくスランプで書けてなかったもんね」
「はっきり言ってくれるんだねえ。桜は」
二人は、かなり親密なようだ。
蒼は視線をいったりきたりさせて二人を見る。
そして、そっと関口を見た。
彼は相変わらず酔っ払いに囲まれて演奏をしていた。
明日もあるのに。
大丈夫だろうか?
ヴァイオリン、弾き通しだ。
「蒼ちゃん」
ふと名前を呼ばれて視線を戻す。
神崎はすまなそうな顔をしていた。
「この前はごめんね」
「いえ!できないおれが悪いんです!先生が謝ることじゃないですから」
「そんなことないんだって。今回は蒼ちゃんと関口のことでピピンっとインスピレーションきちゃってさ。ついつい力入っちゃって……」
「え?」
そこで桜が割って入ってくる。
「先生、しばらくスランプで書けてなかったんだよ。それが蒼と関口を見て創作意欲がわいたんだってさ」
「は?」
「だってさ~。いいじゃん。仲良しで。本当に羨ましいくらい見せ付けてくれるからさ。もっとうまくいくはずだと思った訳。二人だったら、もっとぴったりしっくり演奏が出来ると思ったのよ。だけど、蒼ちゃんも歌うの初めてだったしさ。それは無理ってもんだよね。思い入れが強いほど、力入っちゃうんだよねえ」
カクテルに手をつけて彼女は笑う。
「蒼~。許してやんなよ。そんだけ、あんたのこと気に入ったってことなんだからさ」
桜は蒼の前に日本酒ベースのカクテルを置く。
「はあ。許すもなにも。おれが至らなくって」
「ほら!また。あんたっていっつもそうだ」
桜は爆笑した。
「世の中は持ちつ持たれずの関係なの。あんた一人が悪いなんてことは滅多にないんだぞ?」
桜の言い分はもっともだ。
蒼は頷く。
「そうなんでしょうけど」
「まあまあ。明日は自由にのびのびやってちょうだいね。あたしも初演で緊張してる。出演者くらい自由に楽しくやってもらいたいわ」
「はい!」
蒼は大きく頷く。
明日は心配だけど。
関口が練習に付き合ってくれているから大丈夫だ。
彼に任せよう。
自分は自分に出来ることをするまでだ。
「おれ、楽しみです。初めてですから。きちんと練習してきちんとやるの」
「そうねえ。あたしとか関口にもそういう初心の頃があったんだよねえ」
桜は煙草に火を着けて笑う。
「桜さんはヴァイオリンをやっていたんですよね?」
ふと疑問。
彼女は一体何者なのだろうか?
「そうだよ。あたしはヴァイオリン専門。もうやんないけどね」
「どうして?」
「まあねえ。いろいろ大人には事情があるのさ」
「大人って」
自分が子供扱いな言い方。
苦笑する。
「明日が楽しみですね」
蒼は、ぼんやり目の前のカクテルを見てつぶやいた。
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