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41 冬のジェラシー1
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文化祭も無事終了し、師走に入った星音堂。
事務所の中もクリスマスモード一色だ。
もちろん、飾りつけは星野が担当。
ぴかぴか光っているネオンの間を抜けて事務所に数少ない客がやってきたのは寒い日の夕方だった。
彼女は楽器ケースを抱えていた。
今日の練習は市民オーケストラだから関口の仲間だろう。
遅番で残っているのは蒼と吉田。
吉田がトイレに立ったのと同時に彼女は事務室に入ってきた。
「すみません」
「はい?」
蒼は、そそくさと仕事を中断してカウンターに回る。
「はい」
「あの、熊谷蒼さんですよね?」
「ええ」
自分に用事?
見たこともない子だ。
でもかわいらしい子。
真っ白なコートが女の子らしさを際立たせていた。
「そうですけど」
「あの。ちょっと聞きたいことがあって」
「?」
彼女はきょろきょろしてから真剣な目つきで蒼を見る。
「あの、関口くんとはどういう関係なのですか?」
「ええ!?」
突然の質問に思わず後ろに下がってしまう。
かなり怪しい反応を示してしまったようだ。
彼女はますます怪訝そうな顔をしている。
「あ、えっと。あの」
「はっきり答えてもらえます?」
外見とは対照的な厳しい口調。
なんなんだろう?
蒼は気を取り直して彼女を見た。
「あ、あの。そういうあなたは、どなたなんですか?」
「そうですよね。あたしがなんなのかを言っていませんでしたよね。あの、あたしが名乗ったらあなたもきちんと答えてくれますか?」
「……」
それとこれとは別問題だ。
蒼はドキドキして彼女を見る。
「あの。あたし、あなたのファンなんです。だから、あんまりにも関口くんと仲良くしているのを見て、どうなのかなって……。関口くんとはなんでもないなら、あたしと付き合ってもらえますか?」
「えええ!」
困る。
初めての告白だ!
女の子に告白されたの。
初めて。
告白第一号は関口だもの。
女の子に告白されたことなんてない。
まず、自分に好意を持ってくれている女の子をみたのは初めてだ。
以前(今でもだが……)、蒼にちょっかいを出してくる市民オケの二人組みがいたが、あれはからかわれてのことだ。
蒼のことが好きだとかそんなものではなかった。
だけど。
今回は真剣な告白だもの。
めまいがした。
蒼はおたおたしていた。
情けない男である。
「急にそう言われても……」
「ですよね。本当にすみません。あたしってせっかちで。この前のミュージカルを見せてもらって本当に感激しました。素敵だなって思いましたし……。もしよかったらお食事とか一緒にしてもらえませんか?そしたらあたしのことも分かってもらえると思うし」
「で、でも」
それは困る。
関口には人に優しくするなって言ってあるのに。
自分が断れないのでは話しにならない。
「こ、困ります!おれ」
蒼の精一杯の勇気。
だけど。
「……すみません。やっぱり迷惑でしたよね……」
彼女は目に涙をためていた。
泣く!?
蒼はおどおどしてしまう。
女の子に泣かれちゃうなんて弱った。
向こうから吉田が帰ってくるのが見える。
泣かせていたら困るのは蒼だ。
「わわ、わかりましたって!」
これでは関口の二の舞だ。
しかし、ここでは埒が明かない。
一度、食事に付き合ってその場で断るしかないだろう。
「本当ですか?」
「い、一回だけですからね!」
「嬉しいです!じゃあ、今晩」
「は?」
突然すぎる。
だけど。
もう吉田が来るじゃないか。
蒼は大きく頷いた。
「わ、わかりました!わかりましたから!」
「じゃあ練習が終わったら外の時計台のところにいますね」
彼女はさっきまでの涙は?っと言うくらいにこやかに事務室を後にした。
「あれ?客?」
トイレから戻ってきた吉田は不思議そうに蒼を見ている。
「え!え、ええ。ただ利用のことでの質問でした」
「そっか。う~寒い!」
トイレから戻った彼はぶるぶるする。
「もうすっかり冬じゃない。さっさと帰るに限る」
「そうですね」
蒼もつられて笑ってから机に戻った。
「あ……彼女の名前聞くの忘れた……」
参った。
本当に。
こういうことに慣れてないから動揺しまくりだった。
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