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43.年越し温泉旅行9
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「そういえば遅いなあ」
星野の腕枕で転寝をしている油井は顔を上げる。
本当に寝ていたのだろう。
眠そうに目をこする。
「ん~……大丈夫かな……」
「ここまで遅いと心配だな」
時計を見ると23時30分。
もう2時間ちかく帰ってきてないことになる。
なにもないといんだけど。
蒼が出て行ってから星野たちもテレビを消して電気も消して、窓から差し込む月明かりの下で話し込んでいた。
いつの間にか油井は眠っていたみたいだけど。
そんな時間もよしとしなければならない。
いつもは油井が高校生だっていうのもあって泊まりで逢うことなんてないのだ。
ちょっと逢って食事したりするくらい。
それも9時には帰らなくちゃならないから慌しいし。
ゆっくりこうして油井との時間を持てたのは初めてかもしれない。
「永久に帰ってこないといいんだけどな。あいつら」
「え?」
むにゃむにゃ寝言をいいつつ星野の言葉に返答をする油井。
器用な男だ。
「なんでもないって」
すると、豪快に障子が開いた。
ビックリして二人は身体を起こす。
今までの静寂はなんだったんだろうか?
蒼をおんぶして帰ってきた関口は酔っ払いだ。
「ただいま~」
上機嫌の蒼は空の一升瓶を持っている。
「お前ら二人でそれをあけたのか?」
星野は呆れる。
「星野さんも一緒に飲みましょうよ♪」
へらへらしている関口は珍しい。
よっぽど美味しい酒だったのだろう。
しかし、この騒ぎようったらない。
かすかに襖が開く。
明らかに隣のカップルが迷惑がって覗いているのだろう。
星野は慌てて二人を番頭さんのいたところの休憩場所に連れ出した。
「お前らな~。おれがいなかったらどうするつもりだったんだ?とんだご迷惑様な客だぞ!」
半分怒り、半分呆れている星野に引きずられて二人はやっとの思いで到着する。
「だって~」
「星野さんがいたんらもん、いいじゃんか」
「は~。結果論で話を進めるな!」
呆れている星野の横で油井は笑う。
「面白い」
「こら。面白がるな。調子に乗るだけだ」
「え?」
おどおどしている油井。
それを見て関口は更に星野に絡んだ。
「星野しゃん~。そんなにかわいい油井をいじめちゃだめら!」
「呂律が回っていないんだが……」
「蒼も!二人を仲直りさせるから来て!」
「うん!」
星野の手を掴んで。
油井の手を掴んで。
握手させてから二人は満面の笑みを浮かべる。
「やった~!」
「仲直り作戦大成功!」
「このバカップルめ!」
星野は頭が痛む。
付き合いきれない。
結局は同じレベルだってことだ。
ここにいる二人は。
手を取り合って踊っていると、番頭さんが出てきた。
「あ!す、すみません。静かにさせますから」
強面のじいちゃんはじろっとみんなを見渡してから一升瓶を差し出した。
「今日は特別な日だ。朝まで騒いでやってくれ」
「へ?」
「やった~!」
「おじいちゃん、大好き♪」
蒼はきゃぴきゃぴしておじいちゃんの手を握った。
「おじいちゃんも一緒に飲もうよ!そうだ!出てこれる人はみんな出てくるといいよ!」
蒼の言葉は深夜の旅館に響く。
「困ったもんだ」
呆れているものの、いつの間にか番頭のじいさんまで座り込んで酒を飲んでいる。
油井はジュースをもらって嬉しそうだし。
しかも。
蒼の声を聞きつけたのか。
隣のカップルも出てきた。
「おれらもいいですか?せっかくの年越しだし。みんなでのほうが楽しい」
「混ざりなって!」
蒼は二人を座らせる。
酔うと仕切りたがるのが蒼の悪い癖だ。
カップルに続いて、老夫婦が出てきたり、中年の夫婦や女性同士の客などが出てくる。
いつの間にか休憩所は満杯になっていた。
おかみさんも夕食の残りなどをおつまみにして出してくれた。
「こんなのってありかよ!?」
星野はぽかんとしてみていたが油井に腕を引っ張られる。
「星野さんも混ざったら?」
「で、でも」
「カウントダウンするってさ」
「ええ?」
蒼ははりきって椅子の上に立つ。
「ではみなさん!カウントダウン開始!」
「3」
「2」
「1」
「あけましておめでろ~~!」
「おめでとう」
「今年も宜しく」
一同は口々に声を上げた。
はっと気が付くと、手を上げた格好になっていた星野。
つい自分もやってしまった……と我に返り顔を赤くする。
隣にいた油井は嬉しそうに星野を見上げた。
「おれ、星野さんと、今この瞬間に一緒にいられてよかった」
「油井……」
そうだ。
周りを見てみると、みんな最高に幸せそうだ。
みんなが笑っているのだ。
怒ったり、悲しんだりしている人間は一人もいない。
みんなが楽しそうに大きな口をあけて笑っている。
蒼も関口も。
番頭さんもおかみさんも。
カップルも老夫婦も。
中年夫婦も女性客たちも。
そして油井もだ。
星野は思わず自分も笑顔になっていることに気づいた。
「結構いいのかもな。こういうのも」
「うん!」
ちょっぴり呼吸をおいてから星野も混ざる。
「よし!今日は一年の始まりだ!楽しむぞ!」
「はい!」
新しい年の始まり。
今年はどんな年になるだろうか?
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