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44.旅立ち3
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今回、ドイツに1ヶ月近く滞在することになって資金面も頭が痛いところだった。
しかし、前々から分かっていたことだったので、関口の少ない給料だけでは無理があると、蒼が援助してくれたのだ。
そういう点では蒼のほうがしっかりしている。
彼は毎月、きちんと貯蓄をしてくれて、関口が困らないくらいの預金をしてくれていたのだ。
そんな関口の事情を知ってか?
桜はレッスン代を徴収することはなかった。
その代わり、ここで働くのが交換条件だったから。
関口は視線を外す。
なんだか申し訳なく感じたのだ。
桜だって自分のレッスンに付き合ってくれて大変な労力を費やしていると思う。
それなのに。
「……いいんですか?一ヶ月も。お店は?」
「一ヶ月もって、あんた相当な自信だね。ファイナルまで残る気してんのかい?それに、店は頼むことになってんだ」
「頼むって……」
そこまで言ったとき。
店のドアが開いて冷たい風が入り込んできた。
思わず視線を向ける。
そこには肩についた雪を払って野木が立っていた。
「いやあ、参った。また降ってきたぞ」
「あれ?野木さん。会社は?」
「今日は雪だからさ」
「雪だからって早く終わる会社なんてあるんですか?」
笑ってしまう。
スーツを脱いで腕まくりをすると、側にあったエプロンを取り上げた。
どういうつもりだ。
関口は瞬きをして彼の様子を見ていると、彼は不敵に笑った。
「いいじゃん。それよっか。明日からはおれがここを仕切るからな」
「へ?」
ビックリして桜を見る。
どういうこと?
「こいつがやってみたいって以前から言ってたからさ。任せることにしたの」
「野木さん……大丈夫なんですか??」
野木は偉そうに仁王立ちした。
「大丈夫だって。桜が帰って来るまで潰さないようにしておくからさ」
「一月で潰れたらシャレにならないでしょう」
呆れる。
だが、そんな皮肉も通用しないのか?
彼は上機嫌に笑っている。
「おれも桜にいろいろ教えてもらって弟子入りしてたんだぜ?」
「だから早いんですね」
桜と言う女性は不思議な部分が多い。
彼女の年齢も素性も不詳。
柴田の師匠ってことは相当な年だと思っていたけど。
関口のレッスンを休みなく1日中行って、夜は乃木に店のことを教えるなんて。
どんだけパワフルなのだろう。
彼女。
結局、こうして一緒にいても正体は不明のままだった。
「ささ。関口は帰って。開店の邪魔だよ」
「ちょ、ちょっと」
おろおろしている関口の背中を野木が押す。
「こういうときは気を利かせるもんだぜ?坊や」
さっさと追い出された関口はふと締め切られた扉を見つめた。
「できてんのか?あの二人……?」
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