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44.旅立ち6
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少しだけのつもりが気づけば時計の針は19時30分を回っていた。
雪の日は静かだ。
事務所の中もしんとしていて思ったよりも仕事がはかどったせいで、時間が過ぎるのも忘れてしまった。
「は!もうこんな時間」
さすがに帰ろうか?
一人は寂しいけど、誰もいないところに関口が帰ってくるのも可哀相だ。
一緒にパソコンに向かっていた吉田も顔を上げる。
「本当だ~。もう帰ったら?関口、待っているんじゃないの?」
「ええ。でも。今日も遅いって言っていたし……」
関口が飲み屋に出入りしているなんてことはとても言えない。
大騒ぎになるだろう。
蒼は笑ってごまかしてからパソコンを閉じる。
「帰ろう」
「気をつけろよ」
「はい」
高田の言葉に頷いて、蒼はコートを羽織った。
すると、急に冷たい風が事務所に流れ込んできた。
「?」
3人が顔を上げると、わさわさ音がして。
そして。
寒そうにしている関口が顔を出した。
「あれ?よかった!蒼、まだいたんだ」
彼は嬉しそう。
「どうしたの?関口」
「いや。蒼がいたらいいな……なんて思ってさ」
吉田は笑う。
「ナイスタイミング!帰るところだったんだ。よかったな。すれ違いにならなくて」
「そうだったんだ!は~。帰った後だったらどうしようって思っていたんだけど」
「よかったな。お迎え来て」
高田も嬉しそうに蒼を見た。
蒼も嬉しい。
「あ、そうそう。吉田さん、高田さん。おれ、明日から、ちょっと出かけるんで、蒼のこと宜しくお願いしますね」
「どこに行くの?」
吉田は首を傾げる。
「ちょっと。お土産は買ってきますから!」
いちいち説明するのも面倒だ。
関口はあいまいに笑顔を見せてごまかす。
「本当だろうな~。じゃないと蒼の面倒みてやんね~ぞ」
「吉田さん!」
蒼と高田は笑う。
「そういうお前こそ気をつけて行って来いよ」
高田はぶうぶう文句を言っている吉田を無視して関口を見る。
「お前は無理するところ多いからな。あんまり無理しないでな」
彼は関口が何のために不在にするか知っているのだろうか?
いや。
そんなはずはないだろう。
年の功か?
彼の言うことには重みがあった。
「ありがとうございます」
関口は笑みを浮かべて頭を下げた。
そして蒼の手を引く。
「帰ろう」
「うん。お先に失礼します!」
頭を下げて事務室を出て行く二人。
高田も吉田も、にやにやして見送っていた。
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