アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
44.旅立ち8
-
「蒼……」
いつも同じだ。
蒼が泣くと関口は黙って抱いていてくれるのだ。
いろいろな思いが頭の中をぐるぐるする。
もうなにがなんだか分からない。
ただ、漠然とした不安だけがこみ上げてきて息が苦しくなった。
「大丈夫?蒼?」
「う、うん。ごめんね。ごめん」
蒼はしゅんとしたまま俯く。
「おれ、関口が帰ってくるまで、ちゃんと待っている。わがままなんか言わないから」
「蒼」
「一人だって平気だ。今までそうだったんだから」
少し落ち着いて、目元を拭う。
彼に心配をかけさせてはいけないのだ。
瞬きをして見上げると、はっとした。
辛いのは自分だけじゃないってことを思い知らされたから。
関口も辛そうな顔をしていたのだ。
「蒼、おれは平気じゃないよ」
「へ?」
彼のこんな表情なんて見たことがない。
「おれは平気じゃない。蒼と離れるなんて」
「関口……」
強がって見せたけど。
関口のそんな顔見たらショックだ。
自分の心に嘘をついているのが恥ずかしく思えた。
「本当だったら、このまま蒼のこと連れて行きたいくらい」
「……ごめん。おれもだ」
「うん」
「嘘ばっかりだね。おれ」
「そんなことはない。蒼は優しい子だよ。おれに心配かけないように言ったんだろう?」
「そうそう」
蒼は笑う。
「おれは優しいの。関口に迷惑かけないようにしているんだって。お兄さんだもん!」
「そうだった!」
関口は爆笑だ。
「蒼は、おれより年上だった」
「なにさ!今頃思い出して……。おれ、もうすぐ26になるんだからね」
「そうだった。蒼、もうすぐ誕生日だね」
「そうだよ……おれ。もう26に……あれ?関口っていつだったの?」
「は?おれは4月だ」
「じゃあこれからだ!」
視線を合わせ微笑む。
「そうそう。これから。おれは25かあ」
「む~。若い気しちゃってさ」
「はあ?誰もそんなこと言ってないだろうが」
「言葉のニュアンスってもんがあるんだよ」
「難しい言葉、よく言えました!」
苦笑している関口。
蒼は怒ったふりをする。
「また!馬鹿にしてさ!」
「はいはい」
肩をすくめて関口は立ち上がる。
「関口!聞いてるのか?」
「はいよ」
「こら!」
冷蔵庫から日本酒を出して関口は笑う。
「これこれ。前祝して」
「わわ!それ、どうしたの!?高いのに」
「桜さんからもらってきた。蒼が好きだろうって」
「い、いいの?いいの~??」
「いいからここにあるんだ」
「そっか」
蒼は笑う。
関口が明るく振舞っていることはよく分かる。
自分もくよくよしないで送り出さないと。
調子を合わせて手を叩く。
「いいよ。付き合う」
「よし!いい心がけだ」
「明日も仕事なんだけどなあ~。おれ」
「明日は明日の風が吹くってさ」
「意味が違うんだけど……」
グラスへ日本酒を注いで二人は向かい合う。
「素敵な演奏に」
「乾杯」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
313 / 869