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44.旅立ち9
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冬の夜は長いが、朝はすぐにやってきた。
朝方まで語り明かした二人。
毎日一緒にいるのに、よくそんなに話すことがあるものだと本人たちもビックリだ。
しばらく逢えなくなるから、肌を重ねてもいいかな?なんて思っていたけど、結局は、馬鹿騒ぎをしているうちに時間は過ぎてしまった。
関口にしたらガッカリな結果だが……。
終始、笑顔の蒼を見ていると、自分も幸せな気分になった。
関口が旅立つ日は、昨日の雪が嘘のように快晴だった。
ちらかったグラスを片付けて、準備していた鞄を確認する。
そして、ベッドの端に座り、うつぶせですやすや寝息を立てている蒼を見つめる。
蒼。
愛おしいと思う。
彼にはいろいろ助けてもらってばかりだ。
23年間生きてきて、素敵な人に出会えたと心から感謝している。
できればこのままがいい。
だけど、関口にはかなえたい夢があるから。
お別れするわけじゃないし、お互い自分が出来ることを精一杯やっていかなければならないのだ。
今回は蒼の身体問題も関わっていることだし、なんとか頑張ってくるしかない。
少し汗ばんでいる額に手を添える。
眠るとぽかぽかあったかくなって赤ちゃんみたいな男だと思うと苦笑してしまった。
「ん~……」
ふんわり触ったつもりだったけど、眠りが浅いのかも知れない。
うっすら瞳を開ける。
「関口……?」
蒼は重い頭を押さえる。
何時?
時計に視線を向けようと首を動かす。
彼がなにをしようとしているのか理解し、関口は笑う。
「まだ7時だよ。蒼」
「7時……?」
目を擦り、寝返りを打つ。
そして.視界に入ってきた関口の格好を見て納得した。
そうだった。
今日は、もう行ってしまう日。
関口はジーンズに茶色のコートを羽織っていた。
そして、脇には大きな黒いケースと相棒であるヴァイオリンがあった。
身体を起こそうかと思うけど、酒が抜けていないみたいだ。
力が入らない。
こんな無様な格好のまま、彼を送り出すなんて恋人失格だと思ってはいてもどうしようもないのだ。
大きくため息を吐いて瞳を閉じる。
そんな彼の様子を見下ろして、関口は優しく笑った。
「おれ、行くから。今日は桜さんと一緒に出る」
「……うん」
もごもごしている蒼の頬に手を当てて優しくキスをする。
「留守番、頼むね」
「うん」
「薬、さぼっちゃだめだよ」
「うん」
「浮気も厳禁だからね」
「うん」
「酒の飲みすぎもだめだからね」
「うん」
「きまちゃん、ちゃんと晴れた日は干してあげるんだよ」
「……」
蒼の言葉を待たずに関口は更にキスをする。
長いキス。
お互いの存在を確かめるかのように。
だるい腕を伸ばして、関口の首に回す。
いつまでもこうしていたい。
行かないでもらいたい。
そんな思いで胸がいっぱいになった。
だけど、蒼の思いは無残にも断ち切られる。
関口は唇を離し、蒼をぎゅっと抱きしめた。
「名残惜しいけど。行かないと」
「うん」
なにも言えない。
口を開いたら。
『やっぱりいかないで!』
『そばにいて!』
そんな言葉しか出てこない気がするのだ。
「いってらっしゃい。関口」
ぎゅっと気持ちを抑えて、やっとの思いで出た言葉はそれだけ。
「うん。いってきます!」
関口は笑顔を見せて荷物を持った。
そして静かに玄関から出て行く。
扉が閉まってしまうと静寂が訪れた。
去年、海外演奏会のツアーに行ったときは桃が面倒をみてくれたから。
それに陽介のことでそれどころではなかった。
「大丈夫。たったの一月じゃない。頑張れる。大丈夫」
自分に言い聞かせるように、蒼はぐずぐず泣きながら呟いた。
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