アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
45.Overture5
-
雪の積もった外で弾くのはどうかとも思うけど、男は観客を集めて堂々と演奏を行っていた。
簡単な曲だったけど、技術があることは一目瞭然だった。
若いその男。
どこから来た男なのだろうか?
陽気な曲をどんどん弾きこなしていく。
そして、曲が終わるごとに観客から拍手喝采を浴びてふかぶかと頭を下げる。
思わず関口も拍手をしていた。
自分なんかにはとても出せない音色だ。
激しい、熱い音。
演奏が終わり散らばっていく客たちの中、いつまでも立ちつくす関口は男を見ていた。
長身でがっちりした感じの男。
少しクセのある黒髪は雪の合間の日差しに照らされて、つややかに見える。
長めのそれを後ろに流し、笑顔が眩しい男は少し色男っぽい。
女性がきゃあきゃあ騒ぎそうなタイプだなと思った。
こういう人と競わなければならないのか。
少し不安もあるが、ワクワクしてきた。
ぼんやり考え事をしていると、男が声をかけてきた。
『やあ。キミも新人音楽祭?』
どきっとする。
自分?
きょろきょろして男を見ると彼は笑っている。
『そうそう。キミ』
いつの間にか周りには誰もいない。
『そうだ。おれも新人音楽祭に出るために来たんだ。キミも?』
『そう。おれも!』
男は愛想よく手を出してきた。
『まあ、いいライバルってところだろう?おれはピゼッティ。イタリアから来た』
なるほど。
だから陽気で情熱的なのだ。
関口は苦笑する。
『キミは?』
『おれは関口圭。日本だ』
『日本か~!遠いね!』
ピゼッティは豪快に笑って、関口にヴァイオリンを渡す。
『へ?』
『おれの手の内は見たんだから、キミのも見せてもらわないとね』
『は?』
勝手だ。
自分はここでみんなに披露していただけじゃないか。
実に勝手すぎる……。
しかし、ピゼッティは有無を言わせぬ態度だ。
強引なところも日本人にはないところだ。
関口は諦めて荷物を降ろしてヴァイオリンを持つ。
『なんでもいいんだな?』
『もちろん。コンクールに出す曲をリクエストなんてしないさ』
『ふん』
だったら簡単な曲でいいだろう。
だってイタリアのカンツォーネをアレンジした曲を弾いていたんだから。
関口も日本の歌曲をアレンジしたものを弾く。
弓を持ち、音あわせをし始めると、あっという間にさっきと同じで観客が集まってくる。
ここは音楽が鳴れば人が集まる仕組みになっているらしい。
とりあえず集まってみて、つまらなければ帰っていく。
変な腕試しだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
319 / 869