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46.新しい道1
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年度末は忙しい。
官庁関係は特にそうだった。
ここ、星音堂も例外はなく、年度末の書類整理に追われていた。
「今日も残業かよ~!こうなると遅番も日勤もあったもんじゃねえな」
がっくりしている星野。
いつもだったら彼の憎まれ口を嗜める水野谷も頷く。
同意見だったのだろう。
「まあ、毎年恒例のことだ。星音堂だけが忙しいって訳じゃない。どこの部署にいても仕事量は同じだ。頑張ってやろう!今晩はおれのおごりで弁当とってやるから」
彼の言葉にだらっとしていた事務室が明るくなる。
「まじっすか!」
一番、瞳をきらきらさせて嬉しそうにしているのは吉田。
そして、その隣の尾形も歓喜の声を上げた。
「わ~い!弁当だ!しかも課長のおごり!」
「お前は太っているから一番カロリーの低いものにしろ」
「またっ!?課長!ひどいです!」
「メタボ予備軍もとい、メタボ症候群のお前の健康を考えてやっているのじゃないか。おれはなにも、意地悪をしてそう言っている訳ではないんだぞ?」
水野谷の言葉に一同は笑う。
これくらい明るくしていないともたないのが本音だろう。
星野は書類作りが早いからいいものの。
ちらっと横を見る。
一番仕事の遅い蒼が問題だと思った。
朝から見ているけど、なんだか進んでいない様子だ。
なにもなくても遅い方なのに。
午前中かかって1枚も書類が完成していないみたいだ。
尾形の話題で盛り上がっている一同を他所に、星野はこっそり声をかける。
「蒼」
「はい?」
「大丈夫か?お前?」
「え?」
「あのねえ。そんなにスローペースでは来年度になっちまうぞ」
「……すみません」
ため息の蒼。
無理もない。
関口がコンクールに出発して3日。
仕事も手に着かないくらい元気がないみたいだ。
困ったものだ。
お互いの足を引っ張り合う関係にだけはなって欲しくないのだが……と星野は思う。
「無理すんなよ。ほれ。少しおれに回せ」
「え?」
「いいから」
星野はさっさと蒼の机に山積みになっている書類の一部を取り上げる。
「おれに任せろ」
「星野さん……」
「お前の仕事が終わらないと、おれの仕事も終わらないの。得意分野の時くらいは、おれに活躍させろって」
星野だって膨大な仕事を抱えているのに。
なんだか申し訳ない。
蒼は恐縮してしまった。
「すみません」
「謝る余裕があるんなら、そっちの仕事ちゃっちゃと終わらせな」
これが星野の優しさだってことは十分に理解できる。
蒼は大きく頷いてパソコンに向かった。
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