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46.新しい道2
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関口がドイツに旅立ってから数日。
なんだか気が抜けた生活を送っていた。
ずっと一人で住んでいたアパートが広く感じられて寂しかった。
食事だって作る気にならないし。
ここのところ、残業も続いていたので、毎日のように帰宅をすれば酒を飲んで眠ってしまっていた。
精神的に脆い自分に嫌気が差す。
頑張らないと。
自分はいつもの生活をこなして、関口が無事に帰ってこられるように待っていなければならないのだから。
昼食も早々に切り上げて机に戻る。
今日は珍しく、誰も事務室に残っていない。
疲れのせいかスタミナのあるものが食べたいのだろう。
外食組みが多い。
みんなよりも遅いんだから頑張らないと。
パソコンを開いて書類を見つめる。
「そう根つめるなって」
作業に取り掛かろうとしたとき、星野の声がした。
「星野さん。でも、おれ遅いし。少しでも進めておかないと」
「蒼~。本当にお前は真面目だけが取り柄の奴だな」
彼は苦笑して蒼の隣、自分の席に座る。
「おれにはそれしかないですから」
「んなことないだろう?」
彼はにこにこして携帯を出す。
「お、メールだ」
嬉しそうだ。
「油井くんでしょう?」
「当たりだ」
ひゅう~♪っと口笛を吹く星野。
どうやらうまく行っているみたいだ。
なんで星野が高校生と付き合っているのかは謎だが、本人たちが幸せなら仕方ないか。
「星野さん。油井くんのこと、本当に好きなんですね」
「当たり前だ。おれにしては珍しいぞ?本当に大切に大切にしてるんだからな」
「珍しいって。今までは大切にしてなかったんですか?」
笑ってしまう。
「あんま好きとかって言うんじゃなかったのかもな。今までの子」
「え?」
「あいつに限っては本当に慎重にやっているつもりだ。油井の家族が心配しないように、門限は守っているし。あいつの部活を優先させているし」
「……そうなんですか?」
そうそうと彼は笑顔だ。
いつも蒼には屁理屈をこねて意地悪するのに。
なんだかちょっぴり妬ける。
だけど、油井は大切にされていていいなと思った。
「いいですね。星野さん」
「いいだろう~」
「……」
へへっと笑う星野にどんなリアクションをしていいのか分からない。
蒼は苦笑いをした。
「だけどさ。今のまんまじゃ、おれのほうの予定がつかないわけ。あいつ、春休みになるし。本当だったらデートし放題なんだけどな」
「星野さん」
「は~。そしてさ。きっとおれの仕事がひと段落する頃には、新しい学期が始まって。あいつは3年生だし。きっと忙しくなってあんまり遊べなくなるんだろうなあ~」
がっくりとうなだれている彼を見ると気の毒だ。
蒼のお節介心がむくむくと顔を出す。
「やっぱり、頑張って早く終わらせましょう!」
「蒼?」
「そうだよね。おれが足を引っ張ったら星野さんや油井くんの邪魔をしちゃうことになるから。おれ、頑張って終わらせます!」
「あ、蒼。別にそういうつもりで言ったんじゃないから。むしろ、おれが言いたいのは、お前は今でも頑張っているんだから、無理するなとだな……」
しかし、こうなってしまうと止まらない。
蒼はいきなり本気モードにスイッチオン。
午前中とは比較にならないほどの気迫で仕事を始めた。
「あちゃ~。悪いことしちゃったかな……」
蒼の性格を考えれば分かることだ。
彼は自分のことはそっちのけで、人のことを頑張る主義だ。
後悔しても後の祭り。
他の職員も目を見張るほど、蒼は別人のように仕事をこなしていった。
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