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46.新しい道7
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忙しい日々は続いていたが、少しは残業の嵐も落ち着いてきた。
定時ではもちろん帰れなかったけど、遅番よりは先に帰れそうだ。
蒼は荷物をまとめていた。
もう星野の姿はない。
今日は油井と遊ぶって言っていたのを思い出した。
遅番は氏家と尾形。
そして、日中の罰で居残りをさせられている吉田しか残っていない。
高田と水野谷もさっさと用事あがると帰っていった。
「なんだよ~。蒼まで帰っちゃうの?」
一人残業になるのは嫌なのだろう。
吉田はああだこうだ言って蒼を引き止めたいらしかった。
「そんなこと言うなよ。吉田。蒼は蒼で頑張っているから帰れるんだ。口動かす前にさっさと終わらせてお前も帰れよ」
氏家は吉田をなだめる。
「ひ~」
「すみません。じゃあ、今日はお先します」
頭を下げてコートを羽織り、事務室を出る。
吉田も可哀相だ。
蒼が入る前なんて、もっと下っ端だったから苛められていてたんじゃないのかな?
ふとそう思った。
まだまだ寒い外に出ようと玄関に向かって歩みを進めると、途中の廊下で市民合唱団長の黒田に声をかけられた。
彼は慌てた様子で事務室に向かっていたところだった。
蒼を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。
「わ、黒田くん」
「あ!よかった~!間に合った」
「へ?」
「ちょ、ちょっと、ちょっと」
帰ろうと玄関に向かっていたのに。
腕を引かれて奥に引き込まれた。
「黒田くん!?」
何事だ。
おろおろしてしまうけど、引っ張られて連れてこられたのは第5練習室だった。
「!?」
「みんな~!連れてきたぞ」
中に入ると、歓声が上がる。
「え?」
「先日はお世話になりました」
「どうも、どうも」
口々になんか話している団員たち。
ここは市民合唱団の練習会場。
なんで自分がここに?
意味が分からないけど、とりあえず、一度は一緒に歌った仲だ。
蒼は頭を下げる。
「どうも。お世話になりました」
「なりましたじゃないよ~」
「へ?」
「そうそう。こちらこそ、これからも宜しく」
「これから?」
蒼は瞬きをして黒田を見上げた。
「悪いね。蒼ちゃん。おれたちを助けると思ってさ。力貸してくれない?」
「え?……ええ!?」
どういうこと??
意味が分からない。
蒼はえっと……と言葉を続ける。
「あの。力を貸すって?」
黒田は蒼を見た。
「今度、夏に定期演奏会やるんだけど、人が足りなくてさ。どうしようかなって話しをしていたら、蒼ちゃんに力を貸してもらおうって意見が出てさ」
黒田の言葉に瞬きをする。
「な?」
団員たちは蒼を興味津々の視線で見ていた。
「文化祭のとき、本当によかったし。是非、一緒に歌ってもらえたら助かるし」
「そうそう」
「特に男声が足りないの」
「蒼ちゃんだけじゃなくて、本当だったら星音堂の皆さんに協力してもらいたいくらいだけど」
「そうはいかないだろうし」
口々に説明をしてくれる団員たち。
つまりだ。
蒼に入団してくれってことなのだろうか?
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