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46.新しい道8
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「ちょっと、ちょっと待ってください。って言うか。おれ、仕事が仕事ですから、練習とかフルに来られる訳じゃないですし。楽譜だってそんなに読めないし。本当、足引っ張りそうな予感だし」
だけど、黒田たちは取り合ってくれそうになかった。
「練習は来られる時でいいって。基本は星音堂でやっている訳だし。楽譜はおれたちも手伝うし。それに蒼ちゃんには王子様いるじゃん」
「だっ!そ、そういう問題じゃ……」
「まあまあ。頼みます!本当に……おれたちを助けると思って!ね?蒼ちゃんの負担にはならないようにするからさ」
頭を下げられても困る。
団員たちは静かに蒼の返答を待っているようだった。
困った。
まさか、自分がこういうサークルに入るなんて思ってもみなかったことだ。
だけど、ふと今朝まで考えていたことを思い出す。
関口がいなくても、一人で生活を成り立たせることが出来るようになる。
大切なことだ。
自分の時間も作っていかないといけないと思う。
自分の世界も。
蒼は黒田を見てから小さく頷いた。
「じゃ、じゃあ。頑張ってみます」
「本当?」
「ええ。どこまで出来るかわからないけど……出来るだけのことはやってみます。あの、それでもおれが足引っ張って困るってなったら、遠慮なく言ってもらえませんか?それが条件です」
蒼の言葉に一同は声を上げた。
「よかった」
「仲間一人ゲット」
たった一人。
こんな自分なのに、ここまで悦んでくれる団員たちを見ると、なんだか申し訳ない気持ちとともに、嬉しくも感じられた。
「ありがとう。蒼ちゃん」
黒田もほっとした顔をしていた。
「すみません」
「なんで謝るの。謝るのはこっちだ。無理やり引き入れたんだから」
「……じゃあさっそく、これね」
ちょっと小太りの女性は嬉しそうに楽譜の束を渡す。
「わわ」
「これね。これ。夏の定演に向けてね。あ、私は楽譜係りの鈴木。宜しく」
「あ、ありがとうございます」
こんなに?
楽譜、何冊あるのだろう?
眼が回りそうだ。
だけど、鈴木は豪快に笑う。
「この楽譜だけは組曲でやるから全部だけど、他のやつは印のついている曲だけ選抜してやるから。安心して」
「今は著作権のこととかで複写して配ったりって言うのが難しいからさ。全部、原本を購入しているんだ。悪いね」
黒田の説明が入る。
「蒼ちゃんはテナーの下のパートをお願いするね」
「は、はい」
「さっそく今日から練習に参加してもらっていい?」
「はい」
蒼の返答に満足して、黒田は手を叩く。
「よし。じゃあ今日はパートに分かれて、音取りだ。来月から先生が来るから、それまでに完全に音取りを終わらせよう」
「は~い」
どやどや分かれていくみんなを見て、なんだか不安になる。
本当に大丈夫だろうか?
だけど、黒田はにこにこして蒼の背中を叩く。
「大丈夫だよ。おれたちも初めての曲ばっかりだから。一緒にやろう」
「う、うん」
「……本当に。無理言ってごめんね。王子に怒られるね」
「関口は」
「え?」
「関口は関係ないです。これはおれが決めたことだから」
「そっか」
「うん」
そう。
関口になにも許可なんてもらう必要はないのだ。
自分のことは自分で決める。
それが当たり前のことだもの。
蒼は大きく頷いて、テナーメンバーが集まっているところに行った。
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