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46.新しい道9
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市民合唱の練習は初心者の蒼にも分かりやすいものだった。
黒田みたいにセミプロもいるが、ほとんどがアマチュアだ。
蒼よりも楽譜の読み方も分からない人も中にはいたし。
蒼に合わせてって言うよりは、いつも分かりやすく音取りをしているってことが分かってほっとした。
ゆっくり分かりやすい練習。
初めてだったけど楽しかった。
21時まで練習して、遅番組に見付からないようにこっそり帰ったつもりだったけど、結局は見られていたらしい。
さっそく翌日、出勤していくと尾形に声をかけられた。
「蒼、なんで昨日市民合唱の練習にいたの?」
「は……見られていましたか?」
「見ていた。見ていた」
「なになに?」
そこに吉田も混ざる。
こういうことって報告しなくてもいいんだろうけど、星音堂での練習が基本の市民合唱に入ったならいずれは分かることだろう。
蒼はあっさり認める。
「おれ、市民合唱の助っ人で夏の定期演奏会に出ることになったんです」
「え!まじで~!?」
吉田はビックリする。
「ええ。昨日、帰ろうと思ったら黒田くんに声をかけられて。なんでも人が欲しいみたいで。本当だったら、星音堂のみんなに手伝ってもらいたいくらいみたいなんですけど。一番下っ端で暇そうに見えたんじゃないですか?おれに声がかかりました」
苦笑して説明をすると、二人は笑う。
「いいんじゃないの?蒼。仕事と家の行き来だけではつまらんよ。人生」
尾形はうんうんと頷いた。
「みんなには言ってないけど、おれだって草野球の選手なんだから」
「へ~!尾形さん、野球やっているんですか?」
吉田はじろじろ、尾形の身体を眺める。
「動いていたって摂取カロリーが多いと大変です」
「お前、失礼だな」
「す、すみません……」
怒られている吉田を見ながら蒼は感心した。
そうか。
尾形も余暇活動なんかを満喫しているところなのだろう。
家族もいて、忙しいだろに。
「そういう吉田は?」
「おれは……そういうことはしてないですけど。やりたいなって思っていますよ。だけど、ここにいると、出来ないことも多いし」
「そうだよな。時間が少し、みんなとはずれるから。社会人の集まりなんかは夜間が多いからね。でも、おれは毎週日曜日に練習があるからさ。出られる日と、出られない日はきちんと割り切ってやっているよ。趣味はもちろん大切だけど、仕事だって責任を持ってやらないといけないし。こっちの理由ばっかりで毎週日曜日休みにしてくださいなんて言っても、他の職員に代替してもらわなくちゃいけないってことになるからさ。そういうわがままは言えないからね」
考えてやっているのだなと思う。
蒼もそうだ。
市民の練習がある日に遅番をやらないでいられるならいいけど。
そうはいかない。
自分のわがままで他の人に迷惑をかけてはいけないのだ。
そこのところは黒田にもう一度、話しをしておいたほうがいいんだと思う。
分かっていてもらわないと。
自分は続けられない。
「勉強になります。尾形さん。これからも相談に乗ってください」
「おう!いいぜ~」
尾形は嬉しそうだ。
その反面、吉田はしょんぼりしていた。
「どうしたんですか?吉田さん」
「別に」
なんだか昨日から元気がない。
居眠りで罰をもらったことがショックだったのだろうか?
それとも、何か思うところがあるのだろうか?
「おはよう!」
星野と高田、氏家が出勤してきたので、3人は自分の席に着いた。
蒼は窓の外に視線を向ける。
この空の下。
関口はどうしているだろうか?
きっとある程度落ち着くまでは連絡を寄越さない気だろうな。
彼はそういう性格だから。
関口も頑張っているのだ。
自分も頑張る。
彼が帰ってきたときに、自分はここまで頑張っていたんだってこと、自信を持って話すことが出来るようにしなくちゃいけないんだから。
「おはよう!今日も一日頑張ろう」
水野谷の声に星音堂の一日は始まる。
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