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48.過去との対峙3
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運ばれたのは歩いて100mの距離にある病院。
星音堂の斜め前にあるのだ。
救急外来のあるここは大きな総合病院。
仕事をしていてもよく救急車の音を聞いていたけど、まさか自分が運ばれるとは思わなかった。
支えてもらえれば歩けるので、男性職員二人に両脇を抱えられて救急外来に入る。
女性はおろおろしているみたいだった。
自分で座っていることが困難なので、とりあえず簡易ベッドに寝かされた。
大したことないと自分では思っているのだが。
何がどうなったのかちっとも理解できない。
冷静なつもりでも混乱しているのは確かだ。
こんなに元気なのに、声も出ないし、なんだか何が起こっているか……。
医師と看護師が出てきて色々とあちこと触られた。
血圧を測ったり、胸の音を聞かれたり。
関節も全て調べられた。
医師はうんうんと頷いてからカルテに状況を書いているみたいだった。
そして、側で車の女性も泣きながら話をしている。
「お名前、言えますか?」
看護師の声。
瞬きをして口をパクパクさせる。
さっきは出なかった声だけど、少し落ち着いたみたいで、声は容易に出た。
「えっと。熊谷、熊谷蒼です」
「あ、声」
女性は医師と話していたのに、嬉しそうに蒼のところに駆けてきた。
「声、出るんですね。よかった!」
「あの。すみません。おれが悪くて。飛び出しちゃったりしたから」
「いいえ。私が一時停止をしなかったから……本当にすみません」
「大丈夫……って言っていいのか分からないけど、痛いところはそんなにないし。大丈夫みたいです」
彼女はものすごい顔をしていた。
泣いているから仕方ないのだろうけど。
すると、ドアが音を立てて開いた。
「蒼!?」
誰?
ふと視線を向ける。
寝ているからよく見えないが、この声は。
聞き覚えがある。
星野の声。
「星野さん」
「このバカッ!こんな近くで事故に遭う奴があるか」
「すみません」
なんで?
星野は仕事をしていたはずだけど……。
「近くで事故があったって大騒ぎになっていたからさ。様子見に行ったら蒼の自転車が道路の脇にしょげておいてあったから、もうビックリしたぞ」
そっか。
心配してきてくれたんだ。
「すみません」
「謝ることなんてないだろうが。それより、どうなんですか?」
星野は近くにいた医師に声をかけた。
彼はぼんやりして蒼たちのことを見ていたのか、星野の問いには答えない。
星野は「先生?」と再び声をかけた。
「あ、ええ。大丈夫だと思います。目立った外傷はないみたいだし。これからレントゲンとCTをやってみてどうかな?だけど、この分だと大したことはないでしょう。お話も出来るみたいだし」
「でも、なんだか力が入らなくて」
蒼はもぞもぞ言い難そうに声を上げる。
「外傷性のショックで、腰が抜けているのかも知れませんね。今日はとりあえず大事をとって入院したほうがいいでしょう」
「腰が抜けて……!?」
ぶっと星野は笑う。
「わ、笑い事じゃないですよ!星野さん。ビックリしたんだから……」
「悪りぃ。まあ、とりあえず、関口もいないし。おれはオヤジさんに連絡とってやるから。今日は入院だな」
「はあ……」
「それから、そこの姉ちゃん。とりあえず、あんたの名前と連絡先を聞いておこうか。蒼も悪いだろうけど、少しは負担してもらわなくちゃならんだろうし」
星野は慣れているのだろうか。
テキパキと処理をしてくれる。
そうだった。
彼女の名前も連絡先も知らないのでは今後、困ったことになってしまう。
蒼は星野に感謝だ。
彼が女性と話しをしている間に、看護師たちは検査や入院の手配をしてくれている。
ふと医師はカルテを見ながら蒼のところにやってきた。
「大丈夫。元気に退院できるようにするからね」
「……はい」
にっこり笑顔の医師。
優しい人だなと思う。
さっきまで不安だらけだったけど、ちょっと落ち着いた。
「ありがとうございます」
「いいえ。蒼くん」
「?」
蒼?
なんで下の名前で……そう言いかけたとき、看護師が蒼に声をかけた。
「熊谷さん。これからレントゲンとか検査をしてから病棟に上がりますね」
「あ、はい」
看護師に返答をしてから医師を見る。
彼は相変わらず笑っていた。
「お大事に」
「……あ、あの」
なんだか不可解なことばかりだ。
頭を打ったからかな?
なんだろう。
女性も何度も頭を下げているのが見えた。
星野はにこやかに手を振っていた。
何がなんだか分からない。
蒼はそのままストレッチャーに乗せられて検査室に搬送されていった。
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