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48.過去との対峙6
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―――加賀。
その名前には嫌な思い出がある。
父親の後輩で、熊谷病院を手伝いに来てくれていた男。
蒼が初めて、陽介以外で信頼できると感じた男。
趣味も合って、一緒に話をしているのが楽しかった。
だけど、彼には裏切られたのだ。
突然、彼の態度は豹変し、襲われた。
これは陽介の機転で未遂で終わったけど。
あの時の恐怖といったらなかった。
陽介に助けてもらわなかったら、自分は深い傷を負っていたに違いなかった。
一度、傾きかけた加賀への信頼は、その事件で見事に失墜し、陽介が蒼の世界の全てになった。
忘れもしない、あの日の出来事。
関口と幸せな日々を送っていたせいで忘れていたけど、眼の前に現れた加賀を見て、その辛い過去がまざまざとよみがえってきてしまった。
加賀との面会を終え、とりあえず異常もないので両親は帰宅していった。
一人、ベッドに丸まって布団をかぶる。
もう逢いたくない人に再会してしまったのだ。
ショックは大きい。
さっきまでうとうとしていた意識は清明になる。
むしろ、鋭敏に動き出してしまったのだ。
「……」
なんでこんなことになったんだろう?
世間って狭いと思う。
まさか、また逢うなんて思いも寄らなかったから。
栄一郎は知らない。
蒼と加賀の間に起こった出来事。
ぐるぐる考えを巡らせていると、病室の扉がノックされた。
大部屋だけど、蒼以外の入院以患者はいない。
どきッとした。
時計を見ると22時を回ったところ。
巡回かもしれない。
「は、はい」
返答をして顔を出す。
扉が開いて立っていた男は加賀だった。
心臓が止まるかと思う。
「……」
一瞬で表情の固まる蒼の反応に彼は苦笑いをした。
「そんな嫌な顔しないで。あの時のこと謝ろうと思って来たんだから」
「……」
「大丈夫。こんなところであんな酷いことしようとは思わないよ。一応、仕事中だしね」
そう言われても。
前科があると信じられないものである。
ドキドキして視線を伏せる。
「入っていいかい?」
「……ええ」
加賀はほっとした様子で笑顔になり、隣のベッドに座る。
このくらいの距離なら少し安心だ。
布団から身体を起こして彼を見た。
彼も年を取った気がした。
あれから10年だもの。
蒼だっておじさんの域に入ってきたし。
「あの時のこと、覚えている?」
加賀の言葉に蒼は頷いた。
「だよね。うん。おれ、本当に悪いことしたって思っている。あの時は、気が動転していて、謝ることもできなかったからさ。あの後、なんどもキミのところに行ったんだ。だけど、機会もないし、勇気もないし。それに、キミはもう大学生になっていて、あの家からは出てしまっていたから。本当にごめん。キミを傷つけたね」
「……」
「恐かったろう?」
恐い。
それはあった。
だけど。
もっとショックだったのは……。
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