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48.過去との対峙7
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「おれ、先生のこと、本当に信頼していた。初めて、家族以外の人で信頼できる人が出来て嬉しかったのに。あんなことになったから、そっちのほうがショックだった」
視線を合わせることなく、蒼は呟くように続ける。
「おれもいけなかったんです。きっと、無意識の内に先生に誤解を与えるような態度を取っていたのかも知れない……」
「そんなことはないよ」
ふと蒼の話を加賀がさえぎる。
「キミななんにも悪くないんだと思う。ただ、おれが勘違いして。陽介くんと話をした時にね」
「陽介と?」
ビックリした。
顔を上げる。
「うん……まあ色々ね」
初耳だ。
陽介はあの当時、加賀のことを毛嫌いしていた。
加賀と話をするのが楽しくて、陽介との時間が少なくなっていたからかもしれないと、後から反省したけど。
その陽介が加賀と話をしたって事実に蒼は驚きを隠せない。
「何を?何を話したんですか?」
「まあ、色々だよ。色々。もう昔のことだから忘れたね」
「先生」
「だから。おれの勘違い。全てね。本当に申し訳なかったね。蒼くんにも迷惑かけて。10年も経つのに、こうして心に傷を残してしまっているのだから……」
「い、いいえ。おれは」
忘れていた。
それは事実。
関口がいなくなって思い出した。
関口といる時はすっかり忘れていたのに。
「大丈夫なんです。おれ、もう」
なんでこんなこと言っているのかは分からない。
だけど、なんだか強がりでもなんでもなくて心からそう言えた気がした。
加賀は笑顔になり蒼を見る。
「蒼くん、なんだか強くなったね」
「え?」
「高校生の時は、本当に自分に自信がないみたいだったし。だけど、今は別の人みたいな感じがするよ」
「そっかな。おれ、何も変わってないけど……」
「ううん。最初に運ばれてきたとき、あれって思ったんだけど、話をしてみると、違う気もして……。でも熊谷先生が来たってことはやっぱりって感じだったけどね」
加賀は立ち上がる。
「そろそろ戻らないと。すまないね。貴重な睡眠時間を」
「いいえ。あの。すみませんでした。おれも誤解していたみたい……」
謝らなくちゃ。
そう思った瞬間。
ふと加賀の手が伸びてきて蒼の頬に触れる。
「蒼くん。そういうの言いっこなしだよ」
「先生」
「関口……さんだったかな?」
「へ?」
「お父さんたちが仕切りに話していた人」
「!」
そうだった。
あの二人は堂々と関口の話をしていたんだっけ。
しかも、何回も名前を話していたような気がする。
「お幸せにね」
「えっと!あの!」
蒼の言葉なんて聞かずに彼は病室を出て行った。
「また、なんだか広まった……」
人の口に戸は建てられないって言うけど、困ったものだ。
がっくりうなだれてから布団にもぐる。
そっか。
勘違い……か。
そこまで思ってふと疑念がよぎった。
どういうことなのだろう。
陽介と話をして勘違いをしてしまったと加賀は話していた。
何を話したのだろうか?
もう過ぎてしまったことだから、と言ったらそれまでだけど……。
そういえば。
今考えると不思議なことだらけだ。
部活を一生懸命にやっていた陽介が、あんなに早い時間に自宅にいるのもおかしかったし。
物音がしたっていっても、すぐに駆けつけてくれるなんてありえなかった。
なにかが不自然な気がした。
だけど、蒼には想像も出来ないこと。
安心したら、一気に眠気が襲ってくる。
蒼は病院の冷たいベッドの上で眠りに就いた。
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