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49.熊谷家3
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蒼と二人でじっくり話しをするのは久しぶりなのだと思った。
陽介との和解の件では、啓介が間にはいってやりとりをしたこともあったけど。
でも、その時はその時で、みんな余裕がない状態だったから、顔を合わせるのも辛いことも多かった。
だけど、今日は何も問題もなく。
こうして蒼をまっすぐに向き合えるってことが啓介にとったら有意義な時間になるはずだったのだが……。
蒼は先ほど購入してきた本を開く。
「蒼?」
「え?あ、ちょ、ちょっとだけ!」
お願いをする時の猫みたいな蒼。
許すしかないだろう。
「いいよ。読んだら」
「やった!」
彼は本当に嬉しそうだ。
本を読んでいるときの蒼。
確かに、昔も幸せそうに本を読んでいたっけ。
学校から帰ると、彼はいつも自室にこもって読書をしていた。
何がそんなに楽しいかは分からない。
啓介はアウトドア派だから。
蒼みたいにこもって一人でじっとしていることなんて到底出来ないのだ。
目の前に嬉しそうに本を開いている蒼。
彼を見つめて、ふと疑問が湧いた。
「ねえ、蒼」
「ん~?」
「本と関口さんとどっちがすきなの?」
「……ん~?……えっ!?」
蒼はビックリして顔を上げた。
「な、ななな、なに急に?」
「だってさ。関口さんと住んでいたって、こうして本読んでいるんでしょう?それってどうよ?」
「何?どういうこと?」
「だってさ~。おれだったらつまらないな。蒼が一人で本読み始まっちゃったらさ」
蒼は考え込む。
そういえば。
自分が読書をしているとき、彼は何をしているんだっけ?
色々考えを巡らす。
自分が読書をしているとき。
ふと脳裏に浮かぶのは、ベッドの上に胡坐をかいて座り、楽譜とにらめっこをしている関口の姿。
「関口はおれなんかよりも楽譜を眺めている時間が長いからなあ」
「そうなの?」
「そうなの。逆におれのほうがつまらないから本を読むの」
「本当かよ」
「たぶん……本当」
自信はない。
もう日常のことって当たり前になりつつあるから。
なんだかぼんやりとしていて、はっきり思い出せないときがある。
もう関口と一緒に住むようになって1年が経とうとしているのだ。
慣れっこになっている部分は多い。
「なんだか怪しいな。蒼」
「なんだよ?なんでそんなこと聞くの?啓介」
「だってさ。蒼のそのペースに合わせられるってすごいことだしさ。よく一緒にいてくれるなって思って」
「失礼だねっ。おれだって関口に合わせている部分が多いんだよ?」
ふうんと啓介は曖昧な返答をしてコーヒーを飲む。
「あのね。そういう啓介には恋人いるの?」
「うん」
「へ?」
「できた」
「何!?」
蒼の大きな声に他の客たちが一斉に注目する。
いかんいかん。
これでは圭一郎になってしまう。
いつの間にやら、自分まで非常識人間になってしまうところだった。
蒼は自分で声を潜めて啓介を見る。
「で、できたって!どういうこと?」
「別に。そんなに驚くことないだろう?大学のサークルで知り合った子」
「そ、そっか。そっか。ふうん。良かったね」
「なんだかあんまり嬉しそうじゃないね。あ、おれが蒼を選ばないで、他の子と付き合うからヤキモチ焼いているんでしょう?」
「む~!何を言う!おれはお兄ちゃんとして、どんな子と付き合っているのか気になっているだけだもん!」
急にお兄ちゃんぶられても……ねと、啓介は笑った。
「まあまあ。長くなったら紹介するって。おれ、長続きしないほうだし。今度もどうなることやら」
「そうなんだ」
「うん。そう」
蒼は椅子に座りなおして啓介を見る。
彼だっていつまでも蒼の弟ではないのだ。
もうすっかり大人の男。
家族ってどんどん変化していくんだな。
そう思う。
自分もそうだけど。
啓介も。
陽介だって。
みんな違う道を歩んでいくのだ。
「ね。啓介。まだどこかに行く余力ある?」
「なんで?」
「ちょっとさ。海にでも行かない?」
「この寒いのに?」
「冬の海って言うのもいいじゃん」
「あのねえ。事故起こしたばっかりで遠出なんかする奴があるか」
「だって」
ぶうとふくれる蒼。
こういう仕草をされると弱い。
きっと関口もこういうところに押されてしまうんだろうな……啓介はそう思った。
「分かったって!海、行くか」
「やったー」
二人はコーヒーをそこそこに店を出て海を目指した。
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