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49.熊谷家6
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結局、飲み会は家族そうぐるみのものになったものの、洋一郎と空は早々と寝室に引き込んだ。
それに、啓介もお酒には弱いと見えて、いつの間にかソファに寝転んで熟睡していた。
「蒼は案外、強いんだね」
「それはそうだよ。公務員は飲み会の機会が多いんだから。そういう陽介だって強いね。どこで覚えたの?」
「おれ?おれは大学とか。医者っていうのも、結構付き合いが大変なんだから」
「そっか」
高校を卒業してから。
蒼はこの家を出てしまっていたので、彼のその後のことはよく知らない。
きっと、彼も自分のことはよく分からない部分が多いんじゃないかな?
「蒼は変わったね」
「え!?」
急になにを言い出すのだろうか?
陽介に視線を向ける。
彼は酔っているのか、ぼんやりしていた。
「陽介?」
「いや。なんだろう?蒼と離れて、蒼のこと分からなくなった。大学を卒業したら帰ってくるものだって、そう思っていたのに。蒼は市内にいるのに一人暮らしをするなんて言い出すし。どうしてそういうことになったのかちっとも分からなかった」
「陽介」
「聞いていいか?蒼。どうしておれから離れた?」
ストレートに聞かれて困ってしまう。
「えっと。離れたって訳じゃないよ。ただ、おれも実家を離れて、一人で頑張ろうって気になったって言うか」
「だから。どうしてそう思ったのか知りたいんだってば」
「ぐ……」
そういうことか。
別に大した理由はない。
ただ、息苦しくなっただけ。
この家に来て、空にされた仕打ちのせいで心を閉ざしていた自分を救ってくれたのはこの陽介だった。
陽介のその存在にすがって高校まで育った。
あの頃は、なにがなんでも陽介と一緒にいたいっていつも思っていた。
だけど、その思いは大学になって変り始めた。
この家を離れた途端、今まで感じなかった憎悪みたいなものを覚えたのだ。
空がおかしくなったのは熊谷のせい。
自分がこういう思いをするのだって熊谷のせいなのだ。
そう思ってくると、陽介のことも疎ましく思うようになった。
愛情と憎しみは紙一重って言うけど、本当にそうだと思う。
大好きな陽介に大切にしてもらうほど、熊谷家と言うものが大きくかぶさってくる。
結局、彼は熊谷家の人間なのだ。
自分とは違う。
いつかは自分も空と同じになるのではないか?
そう思うと、熊谷家が疎ましく、恐ろしく感じられた。
今まで一番に好きだったものが、一番苦手なものに成り下がった瞬間である。
「陽介。おれもね、聞きたいことがあるんだ」
「え?」
「だから。おれも正直に答えるから陽介もちゃんと答えてくれる?」
彼は少し戸惑った顔をしていたけど、大きく頷いた。
「分かった」
こんなことを陽介に面と向かって言うことじゃないって分かってはいるけど、はっきりさせておいたほうがいいことだ。
蒼はまっすぐに陽介を見つめる。
「おれは陽介のことを本当に頼りにしていた。だけど、なんでか本当に分からないんだけど、大学に行ってこの家に対する思いが変ったんだ。だから、この熊谷家である陽介に対してもどう接していったらいいのか分からなくなった。それで逃げたんだ。煩わしい思いをするなら一人になったほうがいいって思った。それだけのことだよ」
蒼にとったらそれだけのこと。
だけど、陽介にとったらショッキングなこと。
「そっか……」
「ごめん。抽象的すぎて分かり難いね」
「いいんだ。うん。きっとそれが蒼の本当の気持ちなのだと思うから」
「……」
陽介はグラスを見つめて苦笑する。
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