アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
49.熊谷家7
-
「そっか。うん。でもよかった」
「なんで?」
「いや。蒼が嫌っているのは、この熊谷と言う家であって、おれ自身じゃないってわかったから」
「陽介」
「ま、ある意味、熊谷が嫌いでは根本的に嫌われているってことだから、重症だと思うけどね」
「違うよ。陽介には感謝しているんだ。おれのことをずっと支えてくれていたじゃない。今のおれがこうしていられるのも陽介のおかげだって思っている。それだけは変らないんだから」
「そっか」
「そうだよ。そう」
視線を伏せる。
こういう話題は辛すぎる。
だけど、いつかははっきりさせなくちゃいけないことだって分かっている。
「そういう蒼の聞きたいことってなんだ?」
そうだった。
これもまた、ちょっと聞きにくい話。
「あ、あのね。うん。あの、加賀先生って覚えている?」
こっそり切り出す。
「加賀?」
「うん。あのさ。父さんの後輩で。おれたちが高校生のときにここの手伝いをしてくれていた人」
そこまで言うと、陽介は少し気まずそうな顔をした。
「あ、ああ。加賀……ね」
陽介の様子からなにかがあるってことは見て取れた。
「陽介、加賀先生のことでおれに隠していることない?」
「隠すって。なに?おれはあいつとは接点そんなにないし。蒼だろう?仲良くしていたのは」
嘘をついていることはすぐに分かる。
視線が合わない。
「陽介。おれも正直に話したよ」
それでも蒼はまっすぐに彼を見つめた。
もう、なにも隠し事とかなくしたい。
そう思っているから。
「分かった。話すから」
陽介は諦めたように蒼を見つめる。
「大したことじゃない。あの日はおれも加賀と話しをしてみたくなって早めに帰宅したんだ。それで蒼の話になって……」
「どんな話?」
「どんなって。おれの気持ちとか。あいつの気持ちとか。そうこうしている内にあいつがなにか思い立ったみたいで、話は打ち切りになったんだ。だからおれは自分の部屋のほうに帰ったんだけど……。なんだかあいつの様子がおかしかったから。大丈夫かなって思って様子を見に行ったらあの様だろう?」
本当だろうか?
つじつまは合っている。
だけど、陽介の瞳に動揺の色が浮かんでいることは隠せない。
蒼はじっと彼を見つめた。
半信半疑ってところが大きいけど、自分も正直に話したのだ。
彼も正直に話してくれたと信じるしかない。
これ以上、こじれるのも困るし、ここまで本人の口から聞けたらよしとするしかない。
「分かった。そうだったんだね」
「な、なんだよ?急に。どうしたの?そんな人の話題」
「この前、逢ったの」
「え!?」
陽介はビックリしたみたいに蒼を見ていた。
「おれ、交通事故に遭ったでしょう?それを見てくれたのが加賀先生だったの」
「そう。そうだったんだ」
「そうそう。なんだかね。恐い人だなって思っていたんだけど、本当にいい人で。あの時のことも謝ってくれたし。だから、ちょっと気になってしまって。気にしないでね」
「そっか。……そうか」
ぼんやりしていた彼。
なにかを考えているみたいだったけど、気を取り直してグラスを持ち上げる。
「よし!ともかく、お互いの秘密がなくなったわけだ。飲もう」
「そうだね。うん」
二人は乾杯をしてグラスをあおった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
349 / 869