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50.ATTO SECOND4
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中4日はあっという間に過ぎ、二次予選開催日がやってくる。
ここが踏ん張りどころだ。
三次審査は室内楽になるので、日程上、数十名ほどいた出場者は10名に絞られる。
一般的なコンクールの場合は予備審査やテープ審査などがあって、出場者が事前に絞られているので、一次を受ける時点である程度の人数になっている。
しかし、このコンクールでは事前審査がないのだ。
全くの初心者では困ってしまうので、ある程度の書類審査はあるものの、誰でもチャレンジできるように設定されているのが特徴なのだ。
埋もれている原石を見つけてやろうと言うコンセプトらしい。
そのおかげで、出場者たちは余計に一つ関門を与えられる。
ピアノ伴奏曲、室内楽、オーケストラ。
この三つで収まるはずの審査にプラスしてピアノ伴奏曲を余分に練習しなければならないのは負担でもある。
しかし、どうしてこんなまどろっこしい方式になっているのか分からないが、関口にとったら好都合なことだった。
そう。
経歴の浅いもの、生の演奏で勝負したいものからしたら、きちんとした一次審査を行ってくれると言うことは嬉しいことだ。
長丁場になってしまっているが、忍耐力のついた彼にとったらなんともないことだった。
一次を切り抜けてきた猛者たち。
その中で生き残っていくのは本当に厳しいことだ。
星音堂のコンクールの比ではない。
ヴァイオリンを抱えて一次の時と同じ、桜とミハエルと会場に入る。
ミハエルとは今回までの付き合いだ。
『今日もいつも通りやれば大丈夫だ。おれが合わせるから。圭は好きにやっていい』
『ありがとう』
もうすっかり見慣れたホール。
さすが音楽の町だけある。
東京の有名ホールに匹敵するくらい、素敵な作りだった。
昔ながらのホールとは異なり、現代的な作りになっている。
入り口を入ると、大きな吹き抜けのロビーになる。
ぐるっと円を描くように伸びている階段は優雅なデザインだ。
ぼんやり自然光を活用した照明にも心が和んだ。
一次のときは無我夢中だったから気付かなかったが、本当にいいホールだと思う。
蒼にも見せてやりたいな。
あれで、一応ホールの職員だ。
結構、他の施設には興味がある様子だ。
ここのスタッフの仕事っぷりなんか見たら感激するだろうな……。
そんなことを思いながら周囲を見渡すと、前回と同じく一箇所に固まっていた報道陣の一人と目が合う。
「?」
男はなにやら仲間に耳打ちをし、そして、こっちに向かってくる。
『関口!今回、自信はありますか?』
『ショルへの一言をお願いします!』
またこれか!
結構、うんざりだった。
しかし、こんな輩にいつまでも振り回されているのではどうしようもない。
半分呆れてから、軽く手を上げて、一同を押し退ける。
そして、さっさと控え室を目指して歩きだした。
あまりに自然な身のこなしに、報道陣たちは呆気にとられその場に立ち尽くしていたが、関口の姿が見えなくなった頃、我に返った。
『しまった!』
『日本の坊やに軽くあしらわれてしまうなんて!』
『只者じゃないぞ。もっと経歴を調べろ』
どんなことでもニュースになってしまう。
恐るべき町。
これもプロになるものとして乗り越えなければならない道なのだと関口は思った。
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