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50.ATTO SECOND8
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そうか。
あいつが街角で演奏をしていたのはこの町の人々を知るためだったのじゃないだろうか?
彼はちょっとしたあの時間でその感覚を掴み取っていたのだ。
天才なのだろう。
自分にはない才能だ。
羨ましい。
世界は大きい。
あまりの才能を見せ付けられて、一瞬気分は萎えるかと思ったが、そうでもなかった。
むしろ逆で、自分がこういう舞台に立って一緒に演奏が出来るってことが嬉しく感じられた。
来てよかった。
本当に。
足取りも軽く、待ち合わせの喫茶店に入る。
「桜さん、すごい演奏があって……」
今感じた感動を桜に伝えようと声を上げると、ふと見知った顔に動きが止まった。
4人がけの椅子。
桜の隣にいたのは自分の母親だった。
「母さん?」
「あ!圭~。お疲れ様~!」
彼女は嬉しそうに飛び跳ねてきて関口の腕をとる。
「素敵だったわよ~!お母さん、蒼ちゃん思い出しちゃった♪」
一瞬どっきりした。
あの演奏を聞いただけで蒼を連想するなんて。
彼女もまた、感受性の豊かなディーヴァだ。
苦笑してしまう。
そしてみんなを見渡して首をかしげた。
「あのねえ。って!なんで桜さんと一緒なわけ??」
「え~?だって」
そこまで言ってかおりは桜を見る。
彼女は苦笑していた。
「隠したって仕方ないか。かおりとあたし、そして圭一郎は大学の時から知り合いなのよ」
「え!?」
関口は瞬きをして桜とかおりを交互に見る。
「えっと。ってことは?」
「私と桜は同級生なの。知り合ったのは大学に入学したとき。その後、お父さんと知り合ったのよ。お父さんは先輩だったから」
知らない。
そんな話。
二人の馴れ初めなんて聞いたこともないのだから。
しかも桜が両親の友人だって?
初耳だ。
まあ、桜だって世界的に名の知れているヴァイオリニストだから、この二人と同じレベルなのは分かるけど。
あまりにも住む世界が違いすぎる。
片や世界を飛び回るプリマドンナ。
片や田舎の飲み屋のママ。
人生とは分からないものだ。
「ともかく座りましょうよ♪」
「うん」
母親に促されて、ミハエルの隣に座る。
「誰の演奏を聴いてきたの?」
わくわくして瞳を輝かせるかおり。
その隣では桜がコーヒーを飲んでいた。
本当に対照的な二人だと思う。
本当に友人だったんだろうか?
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