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50.ATTO SECOND9
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「えっと。イタリアのピゼッティって人なんだけどさ」
「ピゼッティ??」
かおりは分からないようだったけど、桜は一瞬表情を変えた。
知っているのかも知れない。
しかし、それ以上、話は進まなかった。
かおりは、ああでもない、こうでもないと一人で勝手に話を始める。
「お父さんも本当は来たかったみたいだけど、お仕事が忙しいのよ。ファイナルには間に合うかしらね~?」
にこにこしているかおり。
ため息だ。
「こなくていい」
これは本音。
人に重圧ばっかりかけてくる親なんて来てもらわないほうが無難だ。
「そんなこと言わないで。お父さん、本当に圭たちのことを心配しているんだから」
「たち?」
その言葉が引っかかる。
まさか。
「そうよ。蒼ちゃんのことだって本当に心配しているんだから。圭がこっちにきちゃっているから一人で可哀相だって。励ましてあげないとって。今頃日本に帰っているんじゃないかしら?」
「ぶ~っ!!」
いつの間にか目の前に並んでいたコーヒーを飲もうとして吹き出す。
「汚ないぞ」
桜は顔をしかめる。
だけどそれどころじゃない!
日本に帰る暇があったらこっちに来いって感じだ。
まあ、来てもらっては困る人だけど。
それに、圭一郎が蒼のところにいくとただじゃ済まないのだ。
困った!
こんなところでのんびりコンクールをやっている暇ではないと本気で思った。
「大丈夫よ。蒼ちゃんはお父さんに任せて……」
「だから任せられないんだってば!」
だんとテーブルを叩いてみせる。
『圭』
隣にいたミハエルは苦笑して関口の肩を抑えた。
『まあまあ』
『まあまあじゃないんだってば!』
ぷりぷり怒っている関口を見てかおりは優しく笑う。
「もう。圭ったら。本当に心配性なんだから」
「父さんだから心配なわけ!」
そんな親子のやりとりをみて桜は笑う。
「確かに。圭一郎じゃあ信用ならないかもな」
「桜まで」
「でしょう?桜さん。あの人はマジ信用ならないですよね」
うんうんと同意する桜。
そんな様子を見てかおりは笑った。
「もう。桜と圭は仲良しになっちゃって」
「意見が合うなんて滅多にないけどね」
桜は苦笑した。
「ま、なにはともあれ。圭のあの演奏なら大丈夫だろう。次は5日後の室内楽。楽団との合わせの持ち時間は半日。本番前ぎりぎりになるのか、ずっと前になるのかは抽選次第だけど、どっちにしろ気は抜けないからね」
桜の言葉に関口は頷く。
「ええ」
じっと関口を見てから桜は息を吐いて笑う。
「よし。今日はかおりもいることだし。なんか美味しいものでも食べてのんびりしよっか」
「そうね。美味しいの食べましょう」
まったくこの人は……と母親を見て思う。
どんな状況でも能天気なのだから仕方がない。
度胸があると言うか、なんと言うか。
ステージで緊張するなんてことは全くないと話していたことを思い出す。
人間離れしているところは圭一郎と同類かも知れない。
そんな両親を持ったものの自分は……。
やっぱり比較してしまうのだから、親のプレッシャーからはまだまだ解放されないんだろうな。
関口はため息を吐いた。
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