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50.ATTO SECOND12
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『そんなことはない。おれたちはお前の友達だろう?信じてやるさ』
『顔にはそう書いてない』
『鋭いな。日本人』
『うるさい』
もう夕暮れの空を見上げて本当に泣きたくなってきた。
なんでこうもまあ、次から次と問題が勃発のだろうか?
蒼に逢いたい。
あの優しい笑顔で抱きしめてもらいたい。
「大丈夫だよ」って言ってもらったらどんなに楽になるか。
『そうしょげるなって。大丈夫だ。お前は一人じゃないだろう?』
ふとピゼッティが声を上げた。
『ピゼッティ』
『おれのことはレオーネでいいって。えっと。お前は?』
『圭』
『そっか。圭』
彼はにっこりする。
『少なからず、おれたちは何か背負ってここにきている。いちいち、そういう話をするのは好きじゃないから言わないだけで、おれだって色々あるさ。そういうお前だって色々ありそうだし。だけど、そういうのは抜きにして。いい演奏しようぜ!圭』
『レオーネ』
彼は笑顔のまま夕日に視線を移す。
『綺麗だ。夕日。ああいうのって何で綺麗かなんて問題ないのだ。ただ、その姿が綺麗であればそれだけでいい。音楽だってそうだ。なんで上手いか?なんで感動するのか?そんな理屈なんていらんだろう。おれたちはそういう世界で生きているんだ。理屈なんていらない。直感だ。直感』
彼の言葉。
関口にはよく分かる。
『お前は往年の演奏家か』
『悪いな。おれは分析型音楽は苦手なのだ』
『そうだな。おれもそうかも』
楽譜をひとつひとつ読み解いて、機械的に解釈するなんてまっぴら。
直感で、自分のイメージで演奏するのが好きだ。
柴田にはよく「古臭い、じじいみたいな奴だな」って言われるけど、仕方ない。
それが関口流なのだから。
『そうだな。そうだ。おれもお前も。何があるかは知らないけど、結果が出せればいいんだな。よし。頑張る』
『そうそう。その意気!次の室内楽、おれはすごい苦手だ。これからもう特訓しないと』
『苦手なのか?』
『だって。相手がブルーじゃないし……合わせにくい』
『は?』
二人の様子を見ていたブルーノは苦笑する。
『ライバルにこういうこと言っていいのか分からないけど。レオーネは本当に奔放に弾くからね。なかなか人と合わせるのが苦手なんだ』
『だって。きみのピアノとは、ばっちり合っていたじゃない?』
関口の言葉に彼は首を竦める。
『こっちが合わせてやっているんだって。本当に神経使うんだから』
『ブルーはおれの感覚を覚えていてくれているから。自由に弾いても付いてきてくれるんだ。だけど、他の人だとそうはいかないだろう?辛い』
しょげてしまっている彼。
『まあ。大丈夫だって。お前、綺麗なものを作りたいんだろう?だったらそのイメージを合わせれば大丈夫だ。大丈夫』
今度は関口が励ます番だ。
おかしなことになったものだと思う。
『ありがとう。圭』
『いいって。よし!おれ、元気出てきた。頑張るぞ。じゃ、帰る!』
『おう。またな!圭!』
『お互い、いい演奏を』
笑顔の二人を残して関口は歩き出す。
頑張ろう。
もうおきてしまったことは仕方がない。
自分は自分だ。
人の騒ぎなんて気にしない。
気にしている場合ではないのだ。
一次を通過したのが奇跡だなんて思ったけど、ここまできたらそうは言っていられない。
せっかくのチャンスなのだから。
ファイナルまで残ってみせる。
そしてショルから蒼を守るんだ。
そう決心して関口は帰途を急いだ。
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