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51.a secret3
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事務室を出て、角を曲がったところにある職員用のトイレに顔を出す。
しかし、吉田の姿はなかった。
「どこ行ったんだろう?吉田さん……」
大丈夫だろうか?
蒼は辺りを見渡してから少し探してみることにした。
どこかで倒れていたりしたら大変だもの。
トイレから出て、向側の会議室を覗く。
いない。
それから、会議室の隣の図書室や倉庫を覗いたがどこにも見当たらなかった。
「吉田さん?吉田さ~ん」
小さい声でそう呟きながら外に繋がっている非常口を開けた。
すると。
「ずいぶんな態度だな。久しぶりにお前の顔を見に来てやったと言うのに」
冷たい安齋の声が聞こえた。
「へ?」
ビックリして非常階段の影に隠れて様子を伺う。
こっそり見ると、安齋の前には俯いている吉田がいた。
二人は裏の駐車場に続く裏庭で、向かい合って立っていた。
偉そうにしている安齋。
その前で小さくなっている吉田。
どういうこと?
「いた」
なにをしているのだろうか?
あんな泣きそうな吉田を見たことがない。
切なそうだ。
「すみません。……おれ、あまりに急で……どうしていいのかわからなくて」
「相変わらず。逃げてばかりいるのか?お前は」
「そんな……。逃げるだなんて」
「ならどうして、あの場所から立ち去った?」
「……すみません」
眼鏡を手で軽く押し上げて安齋は笑う。
「またそれか。お前にはがっかりさせられてばかりだ。あれから2年。いい加減に一人前の男になっているのかと思っていたが、全く成長が見られないな」
「すみません」
ぎゅっと両手を握り締めて小さくなっている吉田。
なんだか見ているこっちが切なくなる。
蒼はぎゅっと瞳を閉じた。
見てはいけないものを見てしまったのかも知れない。
ここで覗き見をしていることは、本当に失礼なことだ。
戻らないと。
見なかったことにしなければ。
「あの。おれ……」
吉田が顔を上げた瞬間。
その場から離れようとした蒼はバケツに躓いた。
「イテっ」
しまった。
逆に動かないでいればよかった。
後の祭りだ。
蒼が慌てて顔を上げると、冷たい視線の安齋と吉田の顔があった。
「蒼……」
「あ、あの。すみません。見るつもり、なかったんですけど……」
どうしてこういう気まずいところにばっかり居合わせてしまうのだろう。
自分が嫌になる。
市民合唱のいざこざのときもそうだったのに。
「新人は立ち聞きが趣味か」
ふんっと安齋は吉田を見る。
「続きはまた今度。機会があったらの話だがな」
「安齋さん……!」
「お前には言いたいことが山ほどあるが。一応、先輩として通っていのだろうから。新人の前で恥はかかせないでおいてやる」
すたすたと裏庭から駐車場に出て行く彼を見送って、取り残された蒼はバツが悪そうに吉田を見た。
「すみません……吉田さん」
吉田は。
なにも言わなかった。
ただ、安齋が立ち去ったほうをじっと見つめていた。
「……蒼。ごめん。なんだかみっともないところを見せちゃったな」
目元をぬぐってから吉田は笑顔を見せる。
いつもの彼。
「吉田さん」
「……なんだか嫌になるね。本当。大人って嫌だね……」
「吉田さん。あの。大丈夫ですか?あの安齋って人に意地悪されていたんじゃ……もしかして。職場でいじめとかあったんですか?」
心配だ。
吉田がこんな怯えているなんて。
そう言えば、みんなが口々に言っていたことを思い出す。
『吉田は最初の頃は馴染めなくて静かだったよな』
『あの頃は素直で可愛かったものだ』
もしかして。
おとなしくしていたのは、あの人のせいなんじゃ。
勝手な妄想が先行する。
その妄想を断ち切ったのは吉田の声だった。
「安齋さんとは付き合っていたんだ」
「そうなんですか!まったく、本当に意地悪で……へ!?」
予想外の言葉に一瞬、脳の処理能力がおかしくなったらしい。
吉田の言葉への理解が遅れた。
「なな?なんと?今、なんて?」
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