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51.a secret4
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「うん……おれもどうしてなんだかわからないんだけど。安齋さんと付き合っていたんだ。ううんと……正確に言えば、今でも付き合っているってことなんだろうけど」
「ええ!?」
どういうこと!?
蒼は、ぽかんとして吉田を見る。
自分の見たかぎり、あれは恋人同士の会話ではないだろう。
それに。
吉田に恋人がいたなんて初耳だ。
2年も一緒にいるのに、恋人の話は一つも聞いたことがなかったから。
「吉田さん?ほ……本気で言っているんですよね?」
「嘘言っても仕方がないだろう。蒼には見られちゃったんだから。だけど、このことは誰にも言ってないから。星野さん以外は」
「……吉田さん」
切ないのだろう。
しょんぼりしている彼は、本当に辛そうだ。
付き合っているって言っても、幸せではない気がする。
「どうして……」
「付き合いが始まったのは安齋さんがここにいるとき。だけど、本庁に異動することになって、距離を置くことになって。あの人は仕事を生半可な気持ちでやる人じゃないんだ。だから。おれとは会わないって。おれは安齋さんの仕事が落ち着くのをここで待っていたんだ」
仕事が忙しいからって逢わない?
そなの。
なんか変。
蒼は違和感を覚える。
「だけど2年は長かったよ。気持ちはどんどん揺れ動くし。本当に好きかなんて分からない。今日、久しぶりに逢ったら、余計に分からなくなっちゃった」
へへと苦笑いをするけど、どうしたらいいのか分からなくて泣きそうな吉田は痛々しく見えた。
「吉田さん」
蒼は失礼かな?なんて思ったけど、そうしないではいられなかった。
手を伸ばして、吉田をぎゅっと抱き締める。
「蒼……」
「辛かったんですね」
きっと、誰にも言えなくて一人で抱えてきたのだと思う。
吉田がどう思っているかなんて、計り知れないことだったけど、蒼が抱きしめると、彼が少しほっと力を抜いたような気がした。
「どうかしちゃってんだ。おれ。安齋さんのことになると本当にどうかしちゃってて。おかしいよな」
おかしいなんてことないと思う。
自分だって、関口のことになったら同じだ。
どうかしちゃってる。
そう思っているくらいだから。
「ありがとな。蒼」
「いいえ。いいえ」
蒼は何度も首を横に振った。
「おれはなにもしていません。どうしていいのかも分からないし。なんて言ったらいいのかも分からないし」
「いいんだって。うん。気持ちだけ嬉しい」
吉田はにっこり笑顔を見せてから、蒼の腕を引っ張る。
「よっし!今日も一日、頑張ろうぜ~!」
いつもの吉田。
いつもの吉田。
いつもの?
本当に?
いつもの吉田が偽りの吉田だったとしたら?
本当の吉田は切なそうな顔をしている彼なのかも知れない。
蒼は複雑な気持ちで目の前を颯爽と歩く彼の背中を見つめた。
「おいおい!長いトイレだな!」
事務室に入ると星野が声を上げた。
「すみません。蒼がもたもたしているから」
冗談を飛ばす彼を見ても気持ちは晴れない。
「なんだ?蒼がもたもたしていたのか~?おいおい、大丈夫か~?事故の後遺症じゃないのか?」
あはは~と事務室はわくがとても笑える気持ちにはなれない。
蒼はしょんぼりして自分の場所に座った。
「蒼?」
「すみません。なんだか気分が優れなくて」
「本当に具合が悪いんじゃないのか?」
水野谷は心配そうに会話に割って入る。
「課長、大丈夫ですよ。蒼は仕事に燃えているから冗談に付き合えないだけですってば」
吉田は蒼のことを気遣ってくれているらしい。
これ以上、みんなが蒼にちょっかいを出さないように配慮してくれているようだった。
情けない。
自分がしなくちゃいけない立場なのに。
逆に吉田に気を使わせてしまっては申し訳ない。
そう思う。
「すみません。吉田さん」
「やだな~。蒼。ほら!元気出せって」
彼はそう言うと自分の仕事に戻っていった。
いつも通りの日常。
いつも通り。
吉田と同じだ。
彼にあんなことがあったっていつもの日常は流れていく。
もしかしたら、この時間って作られたものなのじゃないだろうか?
楽しくて。
温かくて。
居心地のいい。
この空間は作られたものなのか?
なんだか嫌だな。
蒼は外に視線を向けて、胸の中にある漠然とした不安を持て余していた。
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