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51.a secret5
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それから数日。
なにごともなく時間は過ぎていった。
ドイツに行っている関口のことも気になるし。
事故によってすこし不安定になった体調のことも気になるし。
実家での人間関係も気になるし。
そして、吉田のことも気になるし。
蒼はなんだかもやもやした気持ちのまま、毎日を過ごしていた。
事務所内では最近、彼が静かだと言うことが話題になったが、「関口のことを心配しているのだろう」とか、「事故で体調が悪いのだろう」と言う結論に至っていた。
しかし、蒼からすると、一番の心配の種は吉田なのだ。
あれから何も変らずに彼は日常業務をこなしている。
何事もなかったかのように。
星野と冗談を言ったり、明るく接客したり。
その反面、そんな彼を見ているだけで蒼は暗い気持ちになった。
吉田はあの話題に触れようとしなかった。
だから蒼も黙っていたけど、どうしても気になってしまう。
遅番で居残りになった二人。
仕事に手がつかなくて、思わず向かい側にいる吉田のことをぼんやり見ていた。
パソコンとにらめっこしていた彼だったが、蒼がじろじろ見るものだからさすがに顔を上げる。
「なんだよ~。そんなに見つめられても困るんだけど?」
ため息を吐く彼。
蒼は我に返り顔を赤くする。
「す、すみません!そういうつもりじゃ。……なんだか惚けちゃって」
「あのねえ。仕事中は仕事をする!社会人として当然のルールだぞ?」
「すみません」
一人で焦って、側にあった書類に手をつける。
すると、星野から処理しておくように言い渡されていた書類たちはばらばらと机の上から舞い落ちた。
「あわわ!」
「なにやってんだよ……。本当にお前は……」
呆れた顔で書類を拾うのを手伝ってくれる吉田。
なんだか自分が嫌になった。
いつも吉田に迷惑ばかりかけてきた。
彼はなんだかんだ文句を言いつつも、星野と一緒に自分の面倒を見てくれている。
最初にここに入ったときも、優しく親身になって指導してくれた。
吉田は本当にいい人だと蒼は思う。
なのに。
あの男は。
吉田を一人の人間としてみているのだろうか?
あんな横柄な態度、言葉。
いくら恋人だからって言っていいことと悪いことがあると思う。
思いやりが感じられなかったのだ。
なんだか悔しくなったら涙が出てきた。
いつの間にか手を止めて、溢れてくる涙を拭っていると、吉田は苦笑した。
「おいおい。なんで泣くんだよ?書類がばらばらになったくらいでそんなにショック受けることないだろう?ちゃんとページ番号ふってあるんだから。おれが手伝ってやるって」
優しくなだめるように蒼を見る。
「ち、違うんです……」
「なんだよ?」
「あ、あの人。おれ、悔しいです」
「あの人?」
蒼をなだめる手を止め、吉田は瞬きをする。
「あいつ。あいつです。……だって。吉田さんは本当に優しくて、おれにも親切にしてくれるし。困ったとこがあるとおろおろしているおれを引っ張ってくれるすごい人なのに。あの人は酷過ぎます。なんであんなこと言うんですか?吉田さんの人間性を否定するようなこと……」
「蒼……」
蒼が誰のことを言っているのか、十分わかっている。
少し悲しそうな顔をして吉田は床に座り込んだ。
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