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51.a secret7
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遅番を終え、蒼と分かれた吉田は自分の車に戻る。
蒼は今日も自転車。
事故にあって数日とは言え、まだ安静にしていたらいいのに、と思う。
自転車はあの事故で大破したようだが、もう新しいのを買ったらしい。
比較的、アパートからは近いが、実家からだとそう言っていられないはずだが。
「いい大人なんだから車くらい持てばいいのに。都会でもないんだから……」
車のキーを取り出してため息を吐く。
蒼。
蒼と言う男。
ふっと手を止めてぼんやり考える。
関口がいなくて、自分も大変な時期だろうに。
それなのに、彼はああやって自分のことを心配してくれるのだ。
本当に優しいって言うか。
「お人よし、なんだろうなあ」
ふっと笑ってしまった。
「誰がお人よしだって?」
不意に声が響いてはっとする。
目の前にある車のガラス窓に映る自分。
そのすぐ後ろに安齋が見えた。
「安齋さん!?」
「せっかく待っていてやったのに。もたもたして遅いんだよ」
ふんっと鼻を鳴らす。
彼のクセだ。
少し萎縮したものの、まっすぐに彼を見つめる。
「約束してないじゃないですか」
「ずいぶん生意気な口を叩くようになったじゃないか」
長い手が伸びてきて車に押し付けられる。
「お、おれだって少しは大人になりました。いつまでもひよっ子じゃありません」
「ふうん」
顔を近づけられて、ドキドキした。
2年ぶり。
こうして、プライベートで安齋と再会するのは。
ただ一度だけ。
職務中に、顔を合わせた。
あれ以来、そんなに経ってしまっていたのか?と疑いたくなるくらい、彼は変っていなかった。
あの頃と同じ匂いがした。
「どう大人になったんだ?」
吉田を見定めるように瞳を細める。
だけど、今度は怯まない。
この時を待っていたのだから。
「……安齋さん。おれ、待っていました。ここで」
「吉田」
ふと視線を外して続ける。
「2年。長かったです。本当に」
「おとなしくしていたのか?」
「当たり前です。約束したじゃないですか」
今度は逆に吉田が安齋の腕を掴んで引き寄せる。
この温もり。
ずっと追い求めていたものだった。
ほっとした。
心が揺れて、どうしようもない2年間。
安齋に再会したとき、突然のことで気持ちの整理がつかなくてドキドキした。
頭が混乱して、思わずあの場から立ち去ってしまったけど、彼は追いかけてきてくれた。
それが吉田には嬉しかったのだ。
あのまま、事務所にだけ挨拶をして立ち去ってもいいくらいの話だ。
それなのに、わざわざ吉田を探し当てた。
まだ大丈夫。
そう思った。
安齋は自分のことを捨てたりなんかしない。
疑念は確信へ。
自分から安齋の胸に額をつけると、ふっと温かいもので包み込まれた。
安齋が腕を回して抱きしめてくれたのだ。
「お前は成長したと言うが、おれからしたらまだまだひよっ子だぞ」
「安齋さんはおれのこと見てなかったでしょう?2年も」
「……お前、気付いてなかったのか?おれはずっとお前を見ていたのだが?」
「は?」
今まで険しい表情だった彼だが、軽く微笑を浮かべる。
「え?ええ?どういうことですか?」
「本当にお前は馬鹿だな。期間限定逢わないなんて宣告されて馬鹿正直に守るのはお前だけだぞ?」
「は?どういう……」
安齋は愉快そうにしている。
なにがなんだか訳が分からないのは吉田のほうだ。
目をぱちぱちさせて安齋を見上げた。
「こんな目と鼻の先にいて、逢わないようにするほうが不自然だろう?遠距離恋愛でもあるまいし」
「だ、だって安齋さんが、仕事に専念したいって言うから……」
「最初はそのくらいの意気込みで本庁に異動するんだから、お前のお守りは出来ないぞって言う意味だったのに。本気にしたのはお前だぞ?おれは器用なほうでね。仕事と恋愛の掛け持ちくらい難なくこなせるさ」
「ええ!?」
冗談じゃない。
話が違うではないか。
吉田はむ~っとして見せる。
「じゃあ、なんですか?おれが一人で勘違いして逢わないようにしていたってこと!?」
「おれは別にお前から連絡が来たら逢ってやってもいいと思っていた。なのに、馬鹿正直に2年も連絡を寄越さないのだからな。しかも、本庁に来たときなんて、わざとおれを避けていただろう?逢わないように」
吉田は2年間のことを振り返る。
その通りだ。
安齋の仕事の邪魔をしてはいけない。
そう思っていたから、本庁に出張したときも、わざと安齋のいる課を通らないように遠回りをして移動していたことを思い出す。
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