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51.a secret9
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翌日。
蒼はいつものように出勤していく。
自転車で40分もかけてやってくるので、朝一じゃなくてもいいと言われてはいるものの、やっぱり一番に行かないと気がすまない。
白い息を吐きながらやっとの思いで到着した。
普段、出勤するよりは遅いけど、それでも一番。
満足して駐輪場から歩いてくると、玄関に一人の男が立っていた。
「遅いっ!」
よく透る声が玄関先に響いた。
「ひゃ!」
誰??
蒼は首を竦めてから男を見つめる。
あれ!?
この人。
不機嫌そうに立っているマッチ棒みたいな男。
安齋である。
腕を組み、仁王立ち状態だ。
なんでこの人がここに……?
蒼は目を擦ってみた。
昨日の夜、吉田と彼のことをいろいろ話し合ったからかしら?
幻覚??
しかし、安齋は幻覚ではないようだ。
ずかずかと前進してきたかと思うと、あっという間に蒼の目前まで距離をつめてくる。
逃げる暇もない。
「わわっ」
「わわではない。遅刻だぞ。新米のクセに」
「す、すみません!!」
上司でもない男に、どうして怒られてしまうのだろう?
狐につままれた気がして、蒼は何度も瞬きを繰り返していた。
「どうして。えっと。安齋さん。あ、事務室に用事ですか?」
蒼はもたもたしながら玄関を開ける。
凝視されていると手元がおぼつかない。
異様なプレッシャーを感じた。
これがいつも吉田の感じている言われようのない感覚なのか?
これでは言いたいことも言えないって分かる気がした。
「吉田は休みだ。それだけ言いにきた」
「へ?吉田さん……休み?」
珍しい。
しかも、どうしてこの人が?
ふと蒼の脳裏によからぬ出来事が過ぎった。
「あなた!まさか吉田さんになにか酷いことをしたんじゃないでしょうね!?」
蒼は居たたまれなくなって安齋に飛びつく。
さっきまでの萎縮はどこへやらである。
この辺りが蒼と吉田の違いかも知れない。
蒼は安齋の胸元を掴んで引っ張る。
「なぜおれが、あいつに酷いことをしなければならないのだ?」
「だ、だって!吉田さんに酷いことばっかり!吉田さんはあなたに、あんなことを言われる筋合いはないんですから!」
もうこの際だ。
はっきり言っておいたほうがいいと思う。
蒼は相手の反応なんてお構いなしで、言葉を続ける。
「いいですか!吉田さんはおれの大切な先輩で、本当に優しい人なんです。おれのミスだって揚げ足取ったり……はするけど、それでもいざとなると、夜遅くまで残って仕事に付き合ってくれたりするんですから!」
吉田を侮辱するなんて許せない!
む~っとして見上げると、安齋は笑っていた。
あれ?
なんで??
蒼は肩透かしを食らった様子で、掴んでいた手の力を緩めた。
「えっと、なんで笑うんですか!」
酷い!
蒼のことも馬鹿にして……。
だけど、馬鹿にしたような笑みではない。
なんだか心底おかしいって感じがした。
なんだ、この人も笑えるのだ。
こうして、素直に。
お腹の底から。
だけど!
なんで笑われたのか、理由が分からない。
蒼は戸惑って安齋を見上げていた。
「いや。すまない。あまりにおかしくて」
「な、なにがおかしいんですか」
「いやいや。あいつもこんなに慕ってくれる後輩が出来たってことがおかしくて」
「はあ!?」
また馬鹿にしてんのか?
だけど、違うみたい。
安齋は本当に嬉しそうだった。
もしかしたら、心配していた?
「吉田はドジで頭が足りない男だからな。年下に舐められているんじゃないかと心配していた。だが、お前の言葉を聞いて安心した。やっと一人前になったのかも知れないな」
「あの、安齋さん?」
「吉田には言うな。調子に乗る」
それだけ言い残して彼は愉快そうに去っていった。
玄関先で一人取り残された蒼はぼんやりしていた。
本当だったんだ。
あの人は吉田のことを大切にしてくれているのだ。
口は悪いし、変な威圧感を持っているけど、気持ちのいい男なのかも知れない。
それを見抜いているのは恋人である吉田。
そして、星野だけ?
さすが星野だ。
蒼なんか到底、理解もできない人種だった。
「世の中にはいろいろな人がいるんだなあ」
ため息を吐いて突っ立っていると、後ろからどつかれた。
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