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52.ATTO TERZO2
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控え室。
ずいぶんメンバーは減った。
これでファイナルに残れるのは4人。
この三次で半分にされるのだ。
いつもにもまして緊張がありありと感じられた。
「あれ?」
いつもは明るいピゼッティ発見。
だけど、今日の表情は暗い。
やっぱり苦手な室内楽で緊張しているんだろう。
表情が固かった。
こういうときは声をかけないのに限る。
誰だって邪魔されたくないものだ。
ヴァイオリンを置いて、ため息を吐き、ふと廊下に視線を向けると、そこには嫌な男が立っていた。
彼はきょろきょろと控え室の様子を伺っていたようだ。
そして関口を見つけると手招きをする。
むっとした。
奴の指示する行動に従うのも嫌だったのだ。
しかし、にっこり笑っている男を見ると諦めるしかない。
関口はそのまま楽器を抱えて外に出た。
『よお。圭』
『なんだよ!おれはこれから本番なんだ。邪魔しにきたのか?』
『別に。逆に激励しに来てやったんじゃないか』
む~っとした。
この男。
ショルティの顔を見ているだけでむかつく。
今日もカッコつけちゃってさ!と思う。
濃いブルーのスーツ。
蒼を連想させるその色にもむっときた。
なんだかこいつが身に纏っているとむかつく。
『余計なお世話だな』
『まあまあ、そう怒るなって』
そんな関口の思いなんかお構いなしなのだろう。
彼はにこにこして関口をまっすぐに見てきた。
『いや、しかし。正直驚いている』
『は?』
驚くって、自分がここまで残れたこと?
唐突で失礼な男だ。
むっとして見つめ返してやる。
しかし、ショルティは真剣に関口を見ていた。
いつもの皮肉ではないらしい。
『圭の演奏は前に一回聞いている。お前の演奏は素晴らしいが。悲しみばっかり感じた。だけど、ずいぶん変わったな。なんだか感じが違う。表現の幅が広がったんじゃないか?』
そういうこと?
だけど、なんでわざわざそれを言いにきたのか?
なんだかよく分からない。
『それは誉めているのか?』
少し戸惑ってしまい、思わず本当のことか聞いてしまう。
彼は満面の笑みで大きく頷いた。
嘘はないらしい。
『もちろんだ。誉めている。只者ではないって思っていたけど、おれの睨みは確かだったみたいだな』
『ショル?』
彼の口からそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかった。
一瞬、どきりとする。
笑顔を見せていたショルはふと表情を引き締め、瞳を細める。
『楽しみなんだ。ファイナルが』
『へ?』
『お前と共演したい。心からそう思う。必ず残れよ。約束だ』
ぐーで肩のあたりを軽く叩かれ、呆然としている関口を尻目に、彼は豪快に笑いながら廊下の向こうに歩いて行ってしまう。
『ちょ、ちょっと!何一人で約束してんだ!この馬鹿!』
姿を消した彼にがっくりする。
「おれは完全に遊ばれているんだろうか??」
は~……。
残って欲しいなら、本番前にプレッシャーをかけるなよ。
そう思う。
せっかくいい感じで調子が上がってきていたって言うのに。
なんだかどっと疲れてしまった。
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