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52.ATTO TERZO5
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『聞いている?関口?』
『なに?』
『いえ。ずいぶん答えてもらったし。お疲れだろうから、今日はもうやめておくよ。ファイナルが終わったらまた感想を聞きたいね』
珍しいこともあるものだ。
こっちが素直に対応すれば、セコネフも同様な対応をするのだろう。
ふと野木の言葉を思い出す。
こっちが丸くなれば相手も丸くなるって。
蒼と喧嘩をしたときに言われた言葉だ。
そういうことって、いつでも当てはまるのだな。
ふふと笑ってしまう。
『関口?』
『いや。なんでもない。ありがとう。セコネフ』
『へ?』
『なんでもない』
不可解な顔をして出て行く彼を見送ってから、もう一度、ファイナル進出の通知を見つめる。
「やったんだ。おれ」
ほっとした。
しかし、桜に背中を叩かれる。
「あんたね。ほっとしている場合じゃないよ」
「桜さん」
「とりあえずの目標は達成したのかもしれないけど、ここからはそれ以上を目指すことになるんだから」
「それ以上?」
「そう。ファイナルに出場した。そしてそこから目指すのは、グランプリ!」
「ええ!それは無理でしょう?みんな上手だし。おれなんて」
もごもごしていると、びしっと指を指された。
「あんだ!またうじうじして。あんたがファイナルに残れたのはまぐれなんかじゃないよ。ちゃんと公平な審査の結果、生き残った勝者なんだから!そんなこと言ったら審査委員たちに失礼よ。あの中にはあんたのことを推してくれた人がいるんだから。その人たちの期待に答えるためにも、ちゃんとファイナルを頑張りなさい」
「桜さん」
そうだ。
そうなんだった。
審査委員もそうだけど。
あの子達。
最初に自分にサインを求めてきた女の子たちも自分が残れるように祈ってくれると話していた。
自分は、この見知らぬ土地で音楽を通して人と繋がることが出来たのだ。
そして、あいつ。
ショルティもそうだ。
楽しみだといってくれた。
自分との共演を。
自分もそうだ。
蒼の件がなければ一緒に音楽を作ってみたいって思っていた男だ。
「桜さん」
「ん?何よ」
「あの。別に手抜きをするってわけじゃないんですけど。だけど、」
「何?」
「……あの。楽しんできてもいいですか?」
心の底からそう思う気持ち。
桜は爆笑する。
「当たり前じゃない。楽しむべきよ。それがファイナルに進めた者だけが得られる特権なんだから!」
「そっか。おれの特権か」
「そうそう」
よしっと手を握る。
「おれ、やります!」
「その意気だ。さ~って!今日は祝いだ、祝い」
桜は鼻歌を歌いながらキッチンにいるミハエルに声をかける。
『ミハエル!今日は飲むぞ~!』
『桜はいつも飲んでるだろう??』
『なにっ!?』
二人の会話を聞いてからソファに座る。
ファイナルに残れたら蒼に電話しようと思っていたんだ。
携帯を見つめてため息を吐く。
なんて言ったらいいんだろう。
言葉が見付からない。
蒼に。
どう伝えよう。
ファイナルに残ったこと。
それだけでいいのか?
だけど、声を聞いたら、本当に逢いたくなる。
ファイナルを楽しむどころか、日本にすっ飛んでいきたくなるに違いない。
もう少し。
もう少ししたらにしよう。
関口は携帯を閉じて机の上に置いた。
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