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53.心に決める7
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「水野谷くんにはもう話しは付けてあるんだ。悪いんだけど、明日には出発したいと思っている」
「へ!?唐突すぎますっ!」
「いやっ!唐突ではないのだ。前々から決まっていたことなのだ」
それは圭一郎の頭の中だけの話だろう。
熊谷家では今日、今、ここで聞いただけの話だ。
「明日って。でも、蒼は事故にあったばっかりだし」
心配性の陽介は蒼を見る。
それはそうだ。
まだ経過観察中なのに、旅行なんて。
しかも海外なんて。
常識の域を超えている。
「事故??」
圭一郎は瞬きを繰り返した。
「そうだな。もし行くとなればお前に預けることになるから伝えておくが、蒼は数日前に交通事故に遭ったんだ。幸い外傷はないんだが……。事故の外傷は時間が経ってから出る場合もあるから、現在は経過観察中なんだ」
「交通事故って……大変だったね!蒼」
「いえ。ちょっとした接触だったんです。だから、大丈夫なんですけど。って、そういうのはどうでもいいことなんです!」
蒼はだんっとテーブルを叩いた。
そんなことじゃないんだ。
蒼が迷っているのは……。
「蒼、恐いのか?圭と会うの」
圭一郎の言葉にどっきりした。
「……」
図星だから。
「恐いです」
「どうして?」
「だって。おれが行って、関口がなんか負担になったりして、ファイナが上手くいかなかったら困るし」
恐い。
関口と会うの。
少し離れていただけなのに。
なんで不安なんだろう?
関口は怒るだろうか?
関口は落胆するかもしれない。
マイナスな思いだけが胸を騒がせた。
だけど、圭一郎は優しく蒼を見る。
「おれは息子を、人の優しさや思いを無碍にするような男に育てた覚えはないんだがね?」
「はっ!す、すみません。えっと。そういうつもりではなかったんですけど……」
「いや。いいんだ」
にっこり笑っている圭一郎。
「蒼はどうしたい?」
「え?」
「家の息子のことはまあ、ここにおいておいてさ。蒼はどうしたいのかなって」
え?
あれ?
自分はどうしたいんだっけ?
蒼は考える。
自分は。
関口のところに今すぐにでも飛んで行きたいはずじゃないのか?
そう。
そうなんだ。
関口がどう思うかってことばっかりだったけど、自分はすぐにでも関口に逢いたいと思うのだ。
関口に逢いたい。
「お、おれは。関口に逢いたい」
蒼の考えがまとまるのをじっと待っていてくれた圭一郎はにっこり笑った。
「よかった。そう思っててくれて。じゃあ、行こう。蒼がそう思っているんだったら、あいつもそう思っているんだと思う」
「お父さん」
自分は関口に逢いたい。
関口は?
自分に逢いたいと思っていてくれているだろうか?
そう願いたい。
確かめたい。
「おれ、行きます」
決めた。
関口には怒られるかも知れないけど。
行ってみたい。
関口が見ている世界を少しでも見てみたい。
自分も感じてみたい。
そして、関口に逢いたい。
「よし!決まり♪」
圭一郎は嬉しそうに栄一郎を見る。
「いいね?」
「お前だから任せるんだ。大切にしてくれよ。家の息子」
「もちろんだ。大切な息子の嫁だからね」
圭一郎の言葉に反論したのは陽介。
「嫁じゃないですからッ!」
「おお!小姑つきかっ!」
「は!?」
このままいくと喧嘩になりそうだ。
栄一郎が間に入る。
「まあまあ。今日は泊まっていくだろう?」
「ん?そうだな。そうするか」
「そうしろ。そうしろ。久しぶりだし、これからもこういうお前が泊まっていくなんてこと、あるかどうか分からんから。今日は飲もうじゃないか」
「そうだな!」
二人は意気投合して酒をあおった。
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