アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
54.ATTO QUARTO8
-
集中もなにもあったもんじゃない。
普通、本番前の演奏家の控え室に非常識に入ってくる奴は一人しかいない。
関口はむ~っとして男を見据えた。
関口は怒りを通り越して、呆れていた。
「ええい!うるさいんだっつ~の!」
ふざけた両親を一括するために大きな声を出して3人を見る。
3人は一瞬で止まった。
側にはおろおろしているミハエルと高塚と蒼。
え?
「蒼!??」
何度も瞬きをする関口。
蒼はすまなそうに小さくなって控え室の隅に立っていた。
「ご、ごめん。関口……」
「蒼……」
自分の目を疑ってしまう。
本当に?
蒼なの?
思わず手を伸ばして蒼に触れたくなった。
しかし!
途中でその手を圭一郎が握る。
「キモ!」
「ノンノン!蒼ちゃんはお預けだ」
「何!?」
圭一郎は嬉しそうに関口と蒼の間に立つ。
「ファイナル。しっかり演奏したらってことでのご褒美で連れてきたんだからね」
「このオヤジ。まさかあんたが蒼を連れてきたのか?」
「嫌だな~。圭は。お父さんって呼ぶように言ってるじゃないか!」
「む~!!!」
ムンムン怒っている関口。
長身の圭一郎の影からは蒼がおろおろして顔を出す。
「ごめんね。関口。なんか邪魔しちゃうんじゃないかなって思ったんだけど。どうしても見たくなっちゃって……」
「蒼は悪くないよ。おれが怒ってるのはこのバカな親たちに対してだから」
蒼を見るのは何日ぶりだろう。
蒼の声を聞くのは何日ぶりだろう。
ほっとした。
今までの苛立ちや焦り、なにもかもの感情がいっぺんにどこかに行ってしまったかのようだった。
心配そうに強張った表情を見せている蒼。
心配させちゃいけない。
そう思う。
「大丈夫だ。ショルとうまくやってみせるさ」
「うん。ごめんね。本当にごめんね。おれの……」
「また!蒼のせいじゃないって。何度も言っただろう?これはおれの問題なんだから」
半泣きの蒼。
すぐにでも抱きしめてあげたいけど……。
「本当に邪魔なんですけど!」
障害物の圭一郎。
「だから……おあづ」
お預けと言いかけた圭一郎をかおりが引っ張る。
「人の恋路を邪魔するのはいけないことなんだからね。もう。お父さんはこれだから困るのよね。いい加減に子離れしなさい」
「かおり~……」
彼女に言われては身も蓋もない。
「もう少し時間があるし。二人だけにしてあげましょう。ささ、みんな出て、出て」
かおりのよく通る明るい声に一同は控え室を出て行く。
事情の分からない高塚は目を白黒させていたが、ミハエルに軽々と抱えられて連行されていった。
「あ、あの~!お母さん!」
蒼はますますおろおろしていた。
二人だけになるとしんと静まり返ってしまった控え室。
なんだか気まずくて蒼は視線をあちこちに遣っていた。
「……ええっと。あの」
「ありがとう。蒼」
「え!な、なんにもしてないって……」
「ううん」
側のソファに座って、隣をトントンと手で叩く。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
394 / 869