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54.ATTO QUARTO10
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「あ、あれ?お父さんたちは?」
瞬きをしている蒼は辺りを見渡す。
「もう客席に行っているよ。ほら。あんたも一緒に来な」
桜は軽々と蒼の手を取り引っ張る。
「桜さん、あんまり乱暴にしないでくださいよ」
「女の子じゃないんだから、大丈夫だってば」
笑顔で蒼を連行していこうとする桜は鬼だ。
関口はむ~っとして見つめる。
すると、向こうから燕尾服で決めているショルティがやってきた。
一人目無事成功と言うところか。
『圭。調子はどうだ?』
彼はにこやかだ。
そういう爽やかな笑顔が、またムカつく。
『あれ?蒼じゃない?』
ひょいっと顔を出して、桜に連れて行かれそうになっていた蒼を見つけると、一気に駆け寄って行って抱きしめる。
「わわわわ~~!」
『蒼~!久しぶり!相変わらず可愛いね~!あれ?髪が少し伸びた?そういう君も魅力的だよ~!』
「あ、あの、ちょっと!!」
ぎゅうぎゅう抱きしめられても困る。
『お前!!』
いつまでも離す気配のないショルティに関口のパンチが飛んだ。
ぐへっと飛ばされた彼は殴られた頬を押さえ関口を睨む。
『暴力反対!』
『ムカつく~!蒼に触るな!』
『圭は本当に暴力的だな。話せば分かるのに……。蒼、大丈夫?君もDVなんて受けてないかい?』
『受けてないよ……』
蒼は苦笑だ。
『ほらみろ!おれがいつ、蒼に暴行を働いたと言うのだ!』
『さ~てね』
『はぐらかすなよ!話!!』
ムンムン怒っている関口とショルティ。
桜も呆れていた。
「これが今世界で注目されている演奏家の二人だと思うと呆れて物も言えないわね。本当に幼稚というか、低レベルと言うか……」
「はあ」
だけど。
蒼から見ると、関口もショルティもなんだか楽しそう。
こういう喧嘩をすることを楽しんでいるようにしか見えない。
「……でも。いつの間に仲良くなったんですかね?」
「仲いいって言うの?これ?」
「おれにはそう見えますけど」
桜は更に呆れた。
関口と付き合っているくらいだ。
蒼もちょっとズレているのかも知れない。
もう本番だって言うのに。
桜は大きく手を叩いた。
『はいはい。やめ、やめ!この辺にしてくれない?これからいい音楽作るって言うのに。喧嘩してんでは元も子もないわ。さっさと仲直りしなさい!』
彼女は二人の手を取る。
『握手でもしてみたら?』
『仲良くなんてしたくない!』
『こっちこそ願い下げだ!』
むむむ~っと睨み合っている二人。
『いいな!圭!今日は最高の演奏にする自信がおれにはある。つまりだ。ここで最悪な演奏になったら、問題はお前にあるのだからな!』
『なんだと!?今回の演奏はおれのためにあるんだから、そこのところをよく覚えておけ!なにがなんでもおれに合わせろよ!それが指揮者の仕事だろうが!』
再び、言い争いに火が付きそうになったとき、向こうからステージスタッフが顔を出した。
『あの、そろそろ準備を……』
『『分かっているって!』』
二人は声を合わせてスタッフを睨みつける。
猛烈な迫力の二人に、スタッフはおろおろしていた。
『ほら、お前の出番だってよ!』
『お前に言われなくても分かっている!』
こうなってしまうと蒼と桜のことなんて眼中外だ。
『絶対へますんじゃねーぞ!』
『お前こそ!』
二人は怒りながらステージ裏に姿を消した。
「……桜さん、大丈夫ですかね?」
蒼の呟きに桜は爆笑する。
「もうどうにでもなれでしょう。グランプリなんか、はなからとる気していないんだから。あの子。ファイナルに残ることを目的としてきたからね。今回は楽しめればいいんじゃないかな?」
「そうです……よね」
「そういうこと。さ、行きましょう。あたしたちも客席で聞きましょう」
「はい」
二人は連れ立って関口たちの消えた方向とは反対に歩き出した。
なんだか様子が違う気がした。
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