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55.Finale5
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『でも、ショルはみんなと同じ音楽の世界でこうして成功したじゃない。みんなに遅れをとったなんてことないよ。むしろ、大成功じゃないの』
『そんなことないって』
彼は面白そうに笑う。
『実はね。おれ、元々は音楽の道を歩いてこなかったんだよ?』
『え?』
『おれの家は音楽家の家系じゃないんだ。陶器を作っているところでね。小さい頃から父親にいろいろ教えてもらって、兄弟で頑張って焼き物やっていた。国の指定も受けている家柄だからさ。長男だし、おれが家を背負って立つものだと思っていた。だけど、おれ、才能なかったんだよね』
ショルティは笑う。
『父親に何度も教えられたんだけど、結局だめで。今は弟がやっている。そっちは』
『そう、そうだったの』
『そうそう。そうっだったの!』
あっけらかんと笑うショルティだけど、結構ショックだったんじゃないかなって思う。
自分がやるものだと思って頑張ってきたのに。
結局、才能がなくて駄目だったなんて。
『でも、ショルには音楽があるでしょう?』
『そうそう。おれには音楽が残っていた!ずっとピアノはやってきていたんだけどね。早めに見切りをつけられたから、後は音楽で頑張ることにしたんだ』
『よかったじゃない。ショルは音楽の世界に来て正解だったんだよ!』
蒼はそうに違いないと思い切り頷く。
『蒼は優しいね』
『え?』
『そう。おれは音楽に来て正解だった。……だけど、だけどね。やっぱりみんなと、家族と一緒が良かった。同じ世界で頑張れたらどんなにいいだろうって思う』
『……』
蒼は言葉を無くす。
どうしたらいいか分からなくて、ただ黙ってショルティを見つめた。
『えっとね。なんでこの話したかと言うと!蒼がおれに似ているなって思ったから!』
『どうして?』
『蒼だって同じじゃない。圭が住んでいる世界は羨ましい。そう思っているんだけど、だからといって一緒の世界に行けるわけじゃない』
『うん……』
『そうそう』
フォークを振り回して解説をする。
なんだかお行儀が悪い。
だけど、得意そうになって話をしている彼はきっと蒼のことを元気付けようとしているのだろう。
『信頼している大切な人と同じ世界にいたいって言うのは誰にでもある願望だよ。だけど、それは時に叶わない。むしろ、同じ世界じゃなくてよかったって思う時もあると思う。いい?おれは家族とは別な世界で頑張っている。蒼も同じじゃない。圭と同じ世界にいられなくても、蒼は蒼で自分なりに頑張らなくちゃいけないことってあるんじゃないのかな?』
『おれが頑張らなくちゃいけないこと?』
『そうそう。蒼はお仕事もしているし。なんだか食いしん坊で酔っ払いだし。蒼の世界に圭は入れないじゃない』
『関口はおれの世界には入れない……。って!ちょっと。それってどういうこと?』
『別に。可愛いなって思えることを並べてみただけだけど?』
『ショル!』
ドサクサにまぎれて失礼してしまう。
ぷんっと視線をずらしてから考える。
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