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56.迷子の子1
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帰国してからの数日は騒がしい毎日だった。
今回のコンクールグランプリは、マスコミでも取り上げられたので、雑誌の取材も多かった。
特にクラシック関係の音楽雑誌では、ほぼ全部の出版会社で特集を組んでいた。
更に、CDを出さないか?と言うことで、音楽事務所の契約をしてくれといった内容の電話が連日のように掛かってきていた。
「だからっ!おれは、まだそういうことするつもりもないので。ええ。そうなんです。まだ何も決まってなくて……はあ?っつか、そんなことをあんたに言われる筋合いはないっ」
半分怒って電話を切る圭。
その様子をベッドの上で眠そうに見ていた蒼は笑う。
「売れっ子は辛いねえ~」
「皮肉か」
「そういうつもりじゃないんだけど……」
日本に帰ってきてからの圭は、追い立てられるような毎日で機嫌が悪い。
まあ、仕方のないことなのだろうけど。
こういうときは変に触れないほうがいい。
蒼は苦笑して、布団をかぶる。
今日はお休み。
月曜日。
ドイツに行くために休暇をもらったせいで、「この忙しい時に休みやがって」と星野には怒られたけど、土産を見せたらすぐに許してくれた。
本当に星音堂の人たちはゲンキンな人たちなのだ。
あちらこちらに引っ張りだこになっている圭を尻目に、平凡な日々に戻った蒼は幸せだった。
仕事もひと段落して、後は新年度を迎えるだけ。
新年度と言っても、今年も新入社員が入ってくるわけでもないし。
なにも変わらないのだけど。
一人で怒っている圭を放置して、蒼は二度寝だ。
巷では週の始まりで、みんな忙しく動いている時間なんだろう。
週末に一旦止んでいた電話も、今朝からは鳴りっぱなしだった。
圭もいい加減に切れたのか。
思い切って電話線を根っこから引き抜いた。
「うるさい電話だ。本当に頭来る」
「引っこ抜いた」
「こうするしかないだろう?この電話。なんで今時、黒電話なんだ!?留守電にもなりやしないじゃないか」
「だって~。家の電話なんて、滅多に使わないし。ネットするのに引いただけだから。電話機は何でもいいかな?なんて……」
「蒼~。そういう短絡的な考えだから、後で後悔するんだぞ」
「だけど……」
第一、自分の連絡先をここにしてしまっている圭も悪いと思う。
一応、ここは蒼の家でもあるのに。
連絡先は実家にしてくれよ……と思った。
「寝る」
「珍しい。休みの日は一人で起きているのに」
「ここのところ、忙しくて死にそうだ。午後からは練習をしないと腕がなまるし。少しは休みたい」
「そっか」
蒼の上を越えてベッドへ戻った圭。
深くため息を吐く。
こうなることは分かっていたことだろうに。
蒼は笑みを浮かべて瞳を閉じる。
「もう桜さんのところは辞めちゃうの?」
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