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56.迷子の子4
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「あの。あのですね。おれに圭くんのマネージャーをやれって」
「いらん!」
即答だ。
「そう言わないでくださいよ~!おれ、東京には帰れないんですからっ!」
「いらないものはいらないっ!第一、給料を払う余裕はない!おれはしがないヴァイオリニストだし。蒼なんて平凡な公務員だぞ?」
「なんでおれの給料まで出てくるわけ?」
蒼は呆れて圭を見る。
「ともかくだ。そういうことでお前を雇う余裕なんてないんだって」
「給料はいいんです!あの。おれは今まで通り、音楽の時間社の職員であることには代わりがないんですから」
「どういうこと?」
「つまり」
蒼の質問に高塚は説明をする。
「おれの給料は音楽の時間社から。身分もそのまま扱いなんです。ただ、仕事内容が圭くんのマネジメントをするってだけなんです」
「そんなことってできるの?」
「はあ。上からのお達しで」
圭一郎の仕業だろう。
きっと、社長辺りにでも圧力をかけて、社員を一人貸せとか言ったに違いない。
圭は頭が痛い。
「お前もツイてない男だな」
「おれ、下っ端だし」
彼だってこんなことはしたくないんじゃないかな?
そう思う。
記者として、取材をしたり、スクープをゲットしたり。
きっと夢いっぱいでこの業界に飛び込んだに違いない。
それなのに、しがない音楽家のマネージャーをやれだなんて。
不運すぎる。
「お前は本当にそれでいいのかよ?」
思わず聞いてしまう。
「おれは記者とか憧れていて。もちろん、そういう仕事もしたいですけど。こうして音楽の世界って言うのをみて憧れるって言うか。自分に出来ないことだし。だから、ちょっと今回の話は嬉しかったりもして。だって、なにも出来ないおれでも音楽の世界に片足を突っ込めるんですから」
彼の気持ちは蒼にはよく分かる。
音楽に魅了された人は、自分もその世界に身を置きたいと思うことだろう。
自分の反応は素直な反応だったってことが分かってほっとした。
強欲なんかじゃなかったのだ。
ふっとため息を吐いて圭の横顔を見る。
彼にだってこの気持ちは分かることだと思う。
小さい頃から、自分も両親の活躍している場所に行きたいと思っていた男なのだから。
「分かったよ!」
半分投げやり。
だけど、ちょっぴり嬉しそうに圭は立ち上がった。
蒼には嬉しい反応だった。
彼は変わっていない。
なにかを得たから、なにかを忘れていくような人じゃないってこと。
「おれのマネージャーをお前に頼む」
「本当ですか?」
「本当だって。ただし、半分くらいは給料払わせてもらわないとな」
「それは」
「本当だったら全額払わなくちゃいけないところだけど、そうすると、お前が音楽の時間社の社員から外されることになってしまうからな」
「圭くん」
高塚は嬉しそうだ。
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