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56.迷子の子7
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「出来たっ!」
高塚は嬉しそうにカレンダーを掲げた。
それを見て、圭もほっとした。
自分でも作成に参加はしたものの、このスケジュールは痛い。
高塚いわく、忙しいのは最初の1ヶ月だけだと言っていたし。
これは自分が望んだことなのだ。
プロになりたい。
それが自分も目標ではないか。
蒼との生活に慣れすぎていて、忘れかけていたけど。
こういうさまざまな仕事をこなすのが夢だったんだから。
「嬉しいですね。こういうの」
「本当に大変なんだな。マネージャーって」
「これだけじゃないんですからね。これからはおれが交通の手配とかしますから。それから、東京とここと離れているので、毎日、定時の連絡を決めませんか?」
「そうだね。何もなくても一応、毎日連絡を取っておいたほうがよさそうだ」
「何もない日なんてありませんけどね」
「確かに」
ぎっしり埋まったスケジュール。
これでは、しばらく桜の店には顔も出せなそうだ。
予定にはミニコンサートからCDの録音、雑誌や新聞の取材が盛りだくさんだ。
彼をアイドル的に扱うような普通の雑誌の取材は断ることにしたって、クラシック系の雑誌は無数にある。
これは忙しそうだ。
「テレビの仕事だけは勘弁だな。顔は極力出したくないんだけど」
「どうしてですか?ルックス、そんなに悪くないじゃないですか」
「そういう問題じゃないんだ。顔を売りたくているわけじゃない。名前もそうだ。ただ、おれの演奏を聞いてもらえるならいいってだけだ」
「そうなんですね。肝に銘じておきます」
コーヒーを煎れなおしてもらおうと顔を上げて圭は首を傾げた。
「あれ?蒼は?」
「蒼くん……あれ!?寝ているのかと思ったのに」
「確かに。静かな時は大概眠っていることが多いのに。出かけちゃったのか?」
時計を見ると、時間は18時。
もう周りは暗くなっている。
こんな時間までどこをほっつき歩いているのだろう?
「まったく。困った奴だ」
圭は携帯をかける。
プルルル……。
機械的な着信音が部屋中に鳴り響く。
「へ?」
どこで鳴っている??
室内を見渡すと、高塚がベッドの中から黒い携帯を持ち上げた。
「あれま。忘れていっていますね」
「なんのための携帯か全く意味が分からない!」
ふらっと出かけるのは日常茶飯事だ。
「あいつ。いっつもそうなんだから。ふらっと出かけると携帯は持たない。お金は持っていかない。どこに行ったのか見当もつかない。本当に気ままなんだから」
大きくため息を吐いて圭はがっくりうなだれた。
「まま。子どもじゃないんだから。すぐに帰ってくるんじゃないんですか?」
「そう思うだろう?普通は……」
「違うんですか?」
「ところがだ。こういう時に限って、本当に遅いんだ。この前なんて帰ってきたのが12時過ぎだぞ?」
「夜の?」
「オフコース」
「は!?そんなにどこに?って!なんだか古臭いちょいギャグみたいなの辞めてもらえません?」
「え?」
テンポよく会話を続けていたのに。
途中で話の腰を折るな、とばかりに圭は高塚を見る。
「だって。途中で脱線させたのは圭くんのせいじゃないですか」
「そんなことないって。それより、敬語やめてくんないかな?おれが話にくいんだけど」
「でも」
「でもでもなんでもいいって。だけど、おれより年上なんでしょう?あんた」
「……オフコース」
「人のちょいギャグをパクるなよ」
「すみません」
しゅんとなっている高塚を放置して圭はコートを羽織る。
「連れ戻す」
「心当たりあるの?」
「この前ので懲りてさ。あいつの行動パターンを解析したんだ。行く場所は限られている。そこを抑えれば必ずいる」
「すごい執念」
一人で感心している彼の首根っこを掴んで圭は歩き出す。
「ひゃ!」
「あのね。おれのマネージャーになるんだったら蒼のことも覚えておくんだな。あいつのお守りを頼むときもあると思うからさ」
「ええ!」
お守り!?
「オヤジの秘書だって蒼の面倒みてくれているくらいだからな。おれのマネージャーだったら当然の仕事になる」
そこまでやらなくちゃいけないなんて、ちょっぴりマネージャーは大変だなと思う高塚であった。
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